「任せてちょうだい。それじゃあ、リオ。準備は良いかしら?」
「オスッ!よろしくお願いします、師匠!」
俺は両腕を胸の前でバッテンにしてから一気に勢い良く腕を振って挨拶をする。
「うふふ…。師匠…。コ、コホンッ。融合魔法は沸魔法・熔魔法・焔魔法・泡魔法・砂魔法・泥魔法の6個の2属性融合魔法と光魔法・闇魔法・植魔法・爆魔法の4個の3属性融合魔法に分けられるわ。」
母は俺の師匠呼びにまた頬を赤らめな少しだけ意識が違う所に行っていた。しかし、直ぐに咳払いをして真面目な表情で融合魔法の説明を行った。
「いっぱいあるんだね。んっ?師匠、1個足りないけど、もしかしてそれがさっき大師匠が言っていた魔法の事?」
「ええ、そうよ。おそらく最後の魔法で4属性融合魔法があるわ。でもアタシ達や父さん、お義父さんでもその魔法は習得できなかったわ。」
母は満足げな表情を浮かべたが、直ぐに両目を伏せて頭を左右に振り少しだけ悔しそうな表情を浮かべた。
「ねぇ、大師匠、師匠。やってみたと思うけど4属性を融合しても出来なかったの?」
「うん、そうだよ。私も色々と挑戦してはみたよ。でもね、4属性を融合させる事が出来なかったのだよ。私の技能が不足しているのか、それとも融合させる為の条件が揃っていないのか。残念ながら今は研究中であるよ。」
祖父は母と違い落ち着いて語っていたが、左手で右肘を持ち、右拳を口元に置いてうっすらと笑みを浮かべた。
「あ、それとリオ。一応付け足しておくけど、一般的に有名で現状、認知されている融合魔法は2属性融合魔法の焔魔法と熔魔法の2種のみよ。ここまでおそらく全ての魔法を知っているのは、ここにいる”魔法狂い”が教えているだけだから勘違いしてはいけないわ。」
「ははは!”魔法狂い”とはまた懐かしい二つ名を覚えているね、アーシャ。昔は結構そう呼ばれていたんだけどね。」
祖父はその場で大きく笑い、とても懐かしそうでとても恥ずかしげに語った。
「えっ?大師匠ってそんな呼ばれ方していたの?」
「うん、そうだよ。確か名前の由来は…。Iランク試練の門とHランク樹下の門を単独で突破したするまでは”狂人”とか色々言われていたけど…。Fランク冒険者あたりからその呼び方に定着したんだよ。」
「うへ〜っ。大師匠、すっごい呼ばれ方だね。俺なら嫌だよ、そんな呼ばれ方されんのは。」
俺はゲンナリとした表情で祖父の様な二つ名を持つことを嫌悪する。
「でも、私は魔法が大好きだからね。誰になんと言われてもこの呼び名は私にとって褒め言葉なんだよ。」
祖父は俺の表情に苦笑いして、むしろこの二つ名を誇らしげに笑った。
「でも母さんが言っていたよ。その二つ名の所為で魔法公国のグリザイア魔法学院から貴族になれ、教授になれと勧誘がしつこかったんでしょ。」
「はははっ。確かにアレは面倒だったよ。だからこそ、魔法公国とグリザイア魔法学院に1つずつ融合魔法を教えて手を打ったんだよ。どうせ、私が教えなくても誰かしら気がつくし、教えたところで出来る人も限られるしね。」
祖父は軽く笑うと真面目な表情になり、最後の方は少し悪戯をした少年の様な笑みを浮かべた。
「大師匠!出来る人が限られて居るとはどういう事なの?」
「単純な事だよ。融合魔法をするには魔力操作が進化した魔力制御って言う技能が必要なんだよ。そしてそれを覚えるには膨大な経験値が必要なんだよ。それこそ、机の上で研究しかしていない彼らには一生かけても習得ができない程度にはだよ。」
「どのくらいであれば習得できるの?」
「う〜ん、大体Fランク冒険者で稀に習得して居る人がいる程度だよ。」
「ひぇ〜。そりゃ無理だよ。」
俺は右足を一歩下り少しだけ両腕を広げて、祖父の意地悪さに眉を顰めた。
「まぁその話はまた今度話すよ。じゃあ、続きをしようか。」
「そうしましょう。それでね、リオ。融合魔法は基本4属性魔法の組み合わせでできて居るのよ。」
「組み合わせなの?」
「ええ、例えば沸魔法という魔法があるわ。この魔法は火魔法と水魔法の2種類を融合させる事で出来る新しい属性魔法だわ。また闇魔法なら水魔法と土魔法、風魔法の3種類を融合させる事で出来る属性魔法となるわ。」
「ヘェ〜面白いなぁ。そうだったんだぁ。」
「そうなのよ。そしてね基本4属性にはそれぞれ相性があるわ。」
「相性?強いとか弱いとかそう言うのがあるの?」
「そうよ。火は水に負けて消火させる。水は土に負けて吸収させる。土は風に負けて風化する。風は火に負けて燃焼する。属性魔法にはこの様な性質があるわ。」
母は腰に装備していた杖をペン代わりにして地面に”火<水<土<風<火”と書いて説明をした。
「おお〜っ!すっごく面白い性質だね!師匠!」
俺は本格的な魔法の説明にとても興奮し顔を真っ赤にする。そして両手をグーの形にし上げるとそのまま勢い良く引いて喜びを表した。
「この法則は融合魔法にも適応されてね。例えばさっき上げた沸魔法は火と水の組み合わせであるから、水と土の融合魔法の泥魔法に負けるみたいにね。」
「うんうん、なるほど!そう言う感じなんだね!」
「うん、それとね。覚えて欲しい事なんだけどね。魔法は基本的には相性で決まるけど、これを覆す場合が存在するのよ。」
「うんうん!」
俺は自分でも若干引くくらい目を輝かせて何度も頷き話に夢中になる。
「それは魔法の威力を上げる事なのよ。」
「魔法の威力?」
「そう、仮にリオがファイアボールを使い、対してアタシが風のウインドボールを使ったとするね。その場合、アタシの技能の中には魔法威力を上げる特殊技能があるから衝突しても威力の高いアタシの方が勝るわ。」
「うん、何となくだけど強くなればそれだけ威力も上がるって事だね!」
「うん?それは違うわ。もっと分かりやすく言うと風は火を強い火にしてしまうけど、弱い火に強い風が吹くと燃えるどころか消えてしまうでしょ?つまり強度と技能の差によって勝てると言う意味よ。分かった?リオ。」
母は俺が若干違う事を言った事に首を傾げ否定する。そしてより身近な例をあげてより噛み砕いた説明をする。
「ああ!そう言うことか!」
「続けるね。仮にリオが火の下級魔法を放ちアタシが風の中級魔法を放ったとするね。この時にアタシ達の強度と技能の差が無かったとしてもね。さっき言った通り衝突しても威力の違いでリオが負けてしまうわ。」
「なるほど、階級の差ってやつだね!」
「うん、合っているわ。そして最後に込める魔力の差になるね。仮にアタシ達が同じ階級の魔法を使ったとしてアタシがリオの10倍の魔力を込めて放つと単純に威力の差は10倍になるわ。この場合も衝突すれば相性を覆せるわ。」
「なるほど…。つまり強度と技能、階級、込める魔力に注意する事が大切なんだね!師匠!」
「ええ、その通りよ。良くできましたわ、リオ。うふふ、偉いわ。」
母は笑顔で笑うとその場で俺の頭を撫でて褒めた。
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