「うん、リオ君、アーシャお疲れ様。それじゃあ、次は私が魔法の系統や習得の条件、魔法使用時の注意について説明していくよ。」
「えーっ!父さん!もっとアタシがリオに魔法を教えたいわ!これからが面白いんじゃない!邪魔しないでよ!シッシッ。」
母は祖父が交代して俺に教えるのを嫌そうな表情で大きな声で反対する。母はその時に俺の両肩を持ち祖父から俺を隠す様に背を向けて、右手首を前後に振った。
「はははっ。確かにその通りだよ。でも、私だってリオ君に尊敬の眼差しを浴びたいんだよ。昨日の内容が内容だったから特に、だよ。」
祖父は母からの対応を笑って流し、母への視線を外し左下の地面の方を見て、右人差し指で頬をかいた。
「父さんとアモン…。リオに一体何を教えたのよ…。」
母は祖父の表情に何かを感じたのか、ため息混じりの声で呟いた。
「まぁ魔法が簡単に命を奪える危険性とか戦いの時の心構えや私達冒険者の命の価値観とか、その辺りをだよ。」
祖父は母に罪悪感があるのか、一向に母に視線を向けようとしない。
「はぁーっ。父さんとアモンは何をしているのよ…。確かにいずれ避けては通らない事でも、この子にはまだ早過ぎないかしら?」
母は祖父の態度に右手を顔に当てて上を見上げ、俺からは見えなかったが、どうやら祖父と父に呆れ果てているご様子だった。
「それも一理あるよ。でも、私達が彼に魔法を教える前に教えるのは義務だと思うよ。仮に戦闘中に彼自身が思いもしなかった形で、魔法で人を殺めてしまったらそれは魔法を教えた私達の責任でもあるんだよ。少なくても私とアモン君は彼にそう言う後悔を抱いて欲しくないんだよ。アーシャは違うのかい?」
祖父はしっかりと俺と母に目を向けて硬く真面目な表情で話した。
「違くはないわ。アタシもそう思っているわ。でも、やっぱり早すぎるって思うわ。8歳位からでも遅くは無かったわ。なんで先にアタシに相談してくれなかったのよ。」
母は祖父の言っている事を理解はしているが、心情的には納得していなかった。
「相談したら、君は間違いなく止めるからだよ。」
祖父はより一層表情を硬くして話す。
「だったら…!」
母は祖父の態度に顔を真っ赤にして、堪忍袋の緒が切れそうになり右足を前に出して、祖父の胸ぐらを掴もうと手を伸ばす。
「母ちゃん!爺ちゃん!落ち着いて!」
俺は2人の間に両手を広げて割り込み、大声をだして落ち着いてもらおうとした。
「「っ!?」」
2人は俺の割り込みにハッと下を向き、お互いに一歩ずつ後ろに歩いた。
「母ちゃん…ありがとうね。確かに昨日の爺ちゃんと父ちゃんの教えは俺にとってとても苦しかったよ。」
俺は祖父に背を向けて母に笑顔で感謝する。そして、俺は昨日の教えの時に感じた苦しみを母に吐露する。
「リオ君…。」
俺は背後から祖父の何かを我慢している声が聞こえた。
「でも!それと同じくらい爺ちゃんと父ちゃんから優しさも感じたんだ。だからね、俺、考えてみる事にしたんだ。自分がどうしたいのかって。まだ、俺に覚悟は無いけど、それでも母ちゃん達みたいな冒険者になりたいのかってね。だから、2人ともありがとう。」
俺は母に必死な表情で思いの丈を伝えた。俺自身は今日改めて祖父の真意を聞くが、早すぎるとは感じなかった。魔法を拳銃だと置き換えて考えた時に、教える側が最初に拳銃の打ち方を教えて、その危険性を教えないのは責任放棄だと思ったからだ。それならば一層打ち方を学ぶ前に危険性を教えさせて危機感を与える事は良い考えだと思ったからだ。
(でも、頭でわかっている事と心で感じる事は別なんだけどね。正直言って滅茶苦茶に苦しかったなぁ。)
「リオ…。父さん、ごめん。熱くなって、アタシ、父さん達の事を見えてなかった。」
母は冷静さを取り戻し意気消沈して祖父と俺に頭を下げて謝る。
「謝らなくて良いよ、アーシャ。君はリオ君の母親なんだから間違っていないよ。私は君に責められて当然の事をしたんだよ。だから、すまなかったよ、アーシャ。アモン君は責めないで欲しい。彼にも説明せずに私が勝手にやった事だからだよ。」
祖父は空笑いしながら、母の怒りの正当性を母に伝えた。また、父は事前に聞いていたわけではなく祖父のアドリブに乗っかって俺を教育してくれたことが分かった。
「そうだったの…。分かったわ。」
「うん、それじゃあ!今度は楽しい魔法のお話をしてよ!師匠!大師匠!」
俺は2人の暗い空気をぶち壊すべく両手を”パチンッ!”って叩き、笑顔で2人に魔法授業の再開をお願いした。また、その際に俺は母を師匠、祖父を大師匠と分けることで、2人の意識も切り替えられると願った。
「っ!?うふふ、そうね。父さん、任せたわ。」
母は俺の師匠呼びに口角を少し上げて、目は優しくニッコリとした笑顔が戻った。
「っ!?ああ!勿論だよ。それでね、魔法には攻撃型魔法と防御型魔法の2つがあるんだよ。」
祖父は母の笑顔を見て、気持ちを切り替えて柔らかい表情で俺の方を向いた。
「攻撃と防御…。う〜んっと攻撃がファイアボールで、防御がアンチマジックアーマーってこと?」
「うん、正解だよ。まぁ一応魔法には付与型もあるんだけど、これは少し特殊な技能が必要な魔法だから今回は除いておくね。」
「うん、つまり魔法には付与型も含めると3つの型があるって事だね。」
「その通りだよ。それで攻撃型魔法には10系統、防御魔法には5系統の魔法があるんだよ。その内の1つがボール系やアーマー系と呼ばれるんだよ。」
「なるほど!分かりやすいね!」
俺は攻撃と防御の合計15系統に右手でガッツポーズをしながら答える。
「攻撃型魔法はしたから順にラジエイト(放射)系・ボール(球)系・アロー(弓矢)系・ニードル(針)系・ジャベリン(投槍)系・ラプチャー(破裂)系・ピラー(柱)系・クラッシュ(圧し潰す)系・エリア(範囲)系・ブリット(弾丸)系の10系統に分類されるよ。次に防御型魔法はアーマー(鎧)系・シールド(盾)系・ウォール(壁)系・バリア(防壁)系・シェル(殻)系の5系統に分類されるよ。」
「な、なるほど…。大師匠…全然分かんねぇよ。」
俺は分かりやすいと思っていた15系統が一気に複雑に感じて頬を引き攣って冷や汗をかく。
「まぁ今は、これだけ沢山の系統があるんだって位分かれば良いよ。続けるよ。それで、これらの系統魔法は下級魔法から階級を上げるごとに攻撃型2種、防御型1種で習得が出来るんだよ。」
「最下級魔法には系統が無いって事?」
「うん、その通りだよ。あれは殆どが魔法技能みたいなことだから系統が無いんだよ。例えば下級魔法は攻撃型のラジエイト系とボール系の2種と防御型のアーマー系の1種を取得出来るんだよ。」
「そう言うことは…。あれっ?大師匠!もしかして、攻撃型のエリア系?とブリット系?だっけ?と防御型のえーっと?」
「リオ、シェル系だわ。」
母は俺が魔法系統の種類に混乱して頭を抱えると横から手助けをしてくれる。
「そう!ありがとう、師匠。そんで、そのシェル系は最上級魔法になった時に習得できるの?」
「その通りだよ。リオ君、よく出来ました。」
祖父はニッコリ笑い俺の頭に左手を置いて撫でながら褒める。
「あはは。いや〜照れるなぁ。」
俺は少し顔を赤くして右手で自身の後頭部をかきなごら恥じらいを隠す様に笑った。
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