「う、うう…。こ…ここ…何処…。っ痛っ!?ああ〜!気持ち悪い…気持ち悪い…頭がグラグラ…口の中も気持ち悪い…。」
俺は目が覚めて気がつくと見知らぬベッドに寝かされていた。目覚めたばかりの時はさっきまで何をしていたのか全く分からず記憶に支障があった。
しかし、身体が自然と起きあがろうとすると突然金槌で頭を殴られた様な稲妻が走る痛みを感じた。それは、それまで感じなかった視界が激しく揺れる気持ち悪さや頭にガンガンと走る痛み、身体中から体温がなくなった様な寒気、何も吐くことが出来なく胃腸のムカムカする不快感などが一気に吹き出した。
俺は起き上がる身体をベッドに再び沈め、両手は腹部を抱きしめる様に両足をバタバタさせながら右側臥位になり蹲る。目を開けば視界が上下左右に揺れる為にギュッと閉じていると気持ち半分くらい気分が良くなった様な気がしたのでその状態で目を開けるとベットから直ぐ右の近くに小棚がある事に初めて気がついた。
「あぁ…あれは…桶と…ランタン?…それに水筒だ…。みず…水が…飲みたい…。」
俺は右片目のみを開けたまま左手を伸ばす。しかし、残念なことに俺の身体ではそれだけでは届くことはなく、俺は痛みを堪えながら少しだけ身体を無理やり起こし水筒を手に取った。
そのまま横になりながら水を少しずつ飲み込む。俺は横になりながら飲む為に右口元からダラダラと溢れ、ベッドを汚しているが気にしている余裕は無かった。水筒の中身はいつも授業中に飲んでいる自家製ポーション水の味では無く、ほんのり甘くいつもよりも酸味が強く感じた。
しかし、その甘酸っぱい味が疲労感ある今の俺にはとても飲みやすかった。更に飲むたびに少しだけ身体の気怠さと共に視界の揺れる気持ち悪さが和らいだ様な気がした。
「ダメだ…。まだ頭痛ぇ…。起きらんねぇ…。もう少し…寝る…ふぁ〜はぁ〜…。」
俺は水筒の水を飲み終えると顔の直ぐそばに水筒を置きいつでも飲める様にした。そして俺は頭痛と疲労感で起き上がる事が出来ず、欠伸をした後もう一度寝る為に目を瞑った。
一度寝て直ぐだったから時間が掛かると思っていたが、身体の疲労感といつもこの時間に昼寝している習慣だからか気が付けば眠りについていた。
「う…う〜ん…。ここ…何処…?」
俺は両耳に聞こえる騒音に煩わしさを感じると次第に誰かの呼吸音や話し声が聞こえ目を覚ました。
「おう。目が覚めたか、リオ。」
父は俺が目を擦り寝ぼけていると俺の視線を合わせる様に見つめて話しかけた。どうやら俺は父に抱き抱えられる様に寝ていた様だった。
「おはよう…父ちゃん…。」
俺は父の声で寝ぼけていた意識が覚醒したが、魔力酔いの影響がまだまだ残っているのか言葉を続けて発する事が出来ず、いつもよりも声を張り上げて話せなかった。
「おはよう、リオ。でも、もうすっかり日が暮れたけどね。気分はどうかしら?ご飯食べれる?」
母が父の左横から俺の顔を覗き込みながら心配そうで優しい表情で体調の確認をする。俺は母に言われて初めて周りを見渡す。
辺りは太陽が落ちるか落ちないかギリギリの暗さで、大通りの人混みは落ち着いていてる。しかし、周囲の飲食店や出店には結構な人だかりができており喧騒としていた。
「おはよう…母ちゃん…。腹減った…でもまだ気持ち悪いから…食べられない…かも?」
俺のお腹は”ぐぅーるるっ”と音を立てながら空腹を感じるが、同時に嘔吐した影響なのか食堂と胃のあたりのムカムカした不快感、全身が気怠く動きたくない感じがあり自分でも食べれるかよく分からなかった。
「はははっ。それじゃリオ。今日の夕飯は汁物や野菜、果物を中心としたお腹に優しい物にするか。ウシッ!母ちゃん、偶には俺が夕飯作るからそれまでリオを頼めるか?」
父は酷い頭痛に苛まれている俺を気遣ってかいつも張り上げる声量を抑えて笑いにっこり笑った。
「ええ、分かったわ。それじゃあ夕飯はお願いね。リオの事は任せてちょうだい。」
「うん?…。父ちゃん…料理できるの?」
「料理が趣味な母ちゃん程じゃねぇが、それでもある程度の料理なら母ちゃんから習っているから問題ねぇよ。」
「そっかぁ…。母ちゃん…俺も…料理覚えたい…。今度…教えて?」
「ええ、そのうち教えてあげるからもう少しお休みなさい。夕飯が出来たら起こしてあげるからね。」
「うん…そうする…。ふぁ〜はぁ〜…。」
俺は大きな欠伸をするともう一度目を閉じ仮眠した。今日の疲労感や現在の俺の年齢を加味しても流石に今日は寝過ぎたので正直に言えば直ぐに寝れる自信は無かった。
その為に目を閉じる事で少しでも体調回復に臨む為に仮眠する事にした。途中俺を抱きながら歩く父の動きに揺れを感じ酔いかけたが次第に気にならなくなり再び意識が途切れた。
「…。…オ。リオ、夕ご飯よ。起きて頂戴。」
「う…うん?おはよう…母ちゃん…。」
俺は母の途切れ途切れに聞こえる声と左肩を”トンットンッ”と軽く叩く振動に少しずつ目を覚ました。俺は右手で目を擦りながらゆっくりと起き上がる。
どうやら自宅のベッドに寝かされていた様だ。また、少しだけ左口元がベトベトしていた不快感があったから目を擦った手で口元を拭うがヨダレは無かったので恐らく、母が起こすときに拭いてくれたのだろうと納得した。
いつもなら質問からの感謝を述べていたけど、今日は流石にそこまでの体力は無かった。
「体調はどうかしら?少しは楽になった?」
母はベッドの横に置いた椅子に座り少し心配そうな表情で俺の顔を覗き込む。それと同時に右手を俺の額に当てて熱がないかを確認した。
「寝過ぎか何なのか…分かんないけど…まだ頭痛い。それに頭がグラングランする。でも…さっきよりかは…食欲が出た、かも?」
俺は少し寝惚けたままベッドに座ったまま顔を下に向け両目をつむり右手を額に当てて唸る様に呟いた。そして目を開けると未だに視界が揺れ動く感じがある事を確かめつつ左手でおへそあたりをさすった。
「うふふ、それは良かったわ。それじゃあ、リオ、食事にしましょう。」
母は先程の熱が無いかな確認と俺の空腹感に安心を覚えたのかいつものように優しい笑みを浮かべた。そして椅子から立ち上がると俺に右手を差し出し俺の立ち上がりの補助をしてくれた。
「うん。」
俺はゆっくりと歩くが視界が揺れ動くのか頭が左右に揺れているのかとにかくフラフラ歩きながらリビングに向かった。母はそんな俺を支える様にしっかり右手で俺の左手を握り、俺の速度に合わせて歩った。
「おう、リオ。もう夜遅いがおはよう。気分はどうだ?」
父は大皿に料理を盛り付けてテーブルに運んでいた時に俺と目が合い、椅子を引いて着席を促した。
「ああ、うん、父ちゃんもおはよう…。頭がガンガンして痛い…。あと目の前がグラングランする…。でも気持ち悪さよりも腹減った、かも?」
俺はようやく意識が覚醒したのが自身の現状を母の時よりも詳しく説明した。
「ワッハッハ。なら少しでも食って体調回復するしかねぇな。今日はあまり凝らずに質素な野菜炒めと野菜汁にしたぜ。多分匂いもまだきついかも知んねえから味付けも塩と胡椒のみにしたからそこまで気になんねぇと思うぜ。あと食えたらリゴンを細かく切ったからそれも買うと良いさ。」
俺の目の前には大皿に乗った葉物を中心にしたあまり噛まなくても食べられる柔らかい野菜炒めと木製のお椀に入った透明なスープが湯気を立て置いてあった。
もちろんだが食事は箸ではなく金属製のスプーンとフォークでジレン・ユリス夫婦が鍛治の修練の為に作った際に貰ったものだ。
また、スプーン・フォークに限らず家の調理器具のほとんどは彼らの作品なので重宝している。また、俺には彼らの技量は計り知れないが前世でも普通に売っていそうな見た目なので恐らくは高い技能なのだろうと思っている。
「ありがとう、父ちゃん。でも父ちゃん達には全然足らないよ?大丈夫?」
俺は自分のために質素かつ味が薄い物にしてくれた父に感謝するが、どう見てもいつもの食卓よりも少ないと気が付き心配する。
正直父も母も冒険者の為か前世基準でもかなり食べる方で母は大食い選手に準ずる程度には食べて、父は間違いなく大食い選手級である。故に少なすぎると俺は思った。
「うん?あぁ、子供が気にする事じゃねぇよ。大丈夫だ。父ちゃん達はリオが飯食ってもう一度寝た後に足らねぇ分を作り足すからよ。リオは早く良くなる事だけを考えてろ。な?」
「そうよ、リオ、気にしなくて良いわ。ゆっくりお食べ。」
「ありがとう、父ちゃん、母ちゃん。それじゃあ、食べるよ。…うん、この野菜汁、とても美味しいよ、父ちゃん。なんて言うか、体がポカポカして、沁みる優しさだね。」
俺は両親の言葉に納得して料理を手につける。前世の頃の子供時代は頂きます、ご馳走様を学校教育の為にしっかりしていた。
しかし、大人になるにつれて段々と面倒になり、次第にやらず働きだしてからは人前で食べない限りやった記憶がなかった。こちらでもその様な習慣が未だ見たことがないし、今世で教わった記憶もないのでやるつもりも無かった。
「おう、ありがとうよ。でもな、リオ。感想なんてまた今度で良いから今は食うことに集中しとけ。」
「そうよ、リオ。魔力酔いの辛さはアタシ達も分かるわ。無理に話さなくて良いのよ。」
「うん。それでも、今、伝えたいんだ。なんか、今は話しながら食べた方が、気分が良い気がするんだ。」
俺は正直自分でも何を言っているか分かっていないが、兎に角言葉として両親に伝えたいと思いまるで食レポをしながら食事を行った。
「そうか。ならリオの楽な様にすれば良いさ。」
「そうね。」
「そうするよ。それじゃあ、次は野菜炒めを食べるよ。….。うん。塩のさっぱりとした味に、野菜の甘味を、胡椒の風味と、少しピリッとした辛さが引き立てていて、とても美味しいよ。」
「ワッハッハ。しかし、まぁ美味そうに食いやがって。そんじゃあ、俺ら食うか、母ちゃん。」
「うふふ、そうね。」
父と母は俺が食べる姿と感想に笑いながら顔を見合わせる。そしてガツガツと食事を開始した。
「ふぅーっうっぷ。今日はもう、食えそうに無いや。ごめんね、残すよ。」
俺のとりわけ皿にはまだ野菜炒めが少し残っていたが、”うっぷ、うっぷ”となったので今日の限界が来て残す事を決断した。しかしなんとか汁物はだけは完食したので体調不良ながらでも良く食べれた方だと思った。
「おう、無理すんな。幸い汁物はもう一度火を通せば明日また食えるから、明日の朝にしておけ。な?リオ。」
「くぁ〜はぁ〜っ。うん…そうする…。」
俺は空腹感からの満腹感と疲労感に大きく欠伸をするとまだまだ眠り足りないのか頭を”カックン、カックン”と船を漕ぎ始めた。
「リオ、お腹いっぱいで眠くなるのは分かるけど、食べて直ぐに寝ると起きたときに気持ち悪くなるわよ。」
母は俺に食休のためにもう少し起きている様に優しく注意する。
「うん…そうする…。」
俺はそんな母の優しい声により眠気を増し両目をつむりもう寝る準備は万端だった。
「まったくもう…。アンタ、アタシはリオを寝かせてくるわ。」
母の呆れる声がした。椅子が引き立ち上がる音が聞こえると俺の体は浮遊感と共に両脇を持ち上げられる感じと母の温もりを感じた。俺の意識は段々と遠のいていくのが分かり熟睡まで秒読みだった。
「おう。それじゃあ、俺はその間になんか追加で適当に作っとくけど、母ちゃんは何が良い?」
「肉サンド!」
「ワッハッハ。おう、任せておけ。リオを頼んだぞ。」
後日談になるが、次の日俺は起きると案の定と言って良いのか魔力酔いの気持ち悪さは無くなったとものの腹痛と胃腸のムカムカなどの胃もたれが起きていた。また、歩く際に起こる頭が重く視界が揺れ動く様な感覚は少しだけ改善された。
しかし、頭痛は軽い偏頭痛の様に”ズッキンズッキン”とした痛みがあり身体の気だるさも昨日以上に感じ修業を休む事にした。幸いな事にお祈りに関してはベッドの中でも出来たので行いそれ以外のマラソンや魔力系統など修業はやる気が起きなかった。
また、父と祖父から後から聞いた事だが、魔法の修業初日に剣を持ってきたのはボール系魔法を切る方法の実践や念の為の保険だったらしい。俺もすっかり忘れていた初日の授業の答え合わせは単純な事で分離した魔力で他の三属性融合魔法を作ることができると言うことだった。
更に俺の気絶中に祖父と父、母は修業で気絶した俺を見た祖母にコッテリと説教されたと苦笑いしていた。やはりあの中では祖母が1番権力者だった様だ。
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