幼少期の修業・魔法編2-7

探検の書

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「そっかー。大師匠、師匠。それじゃどんな時に最下級魔法って使えるの?」

俺は祖父達がどんな場面で最下級魔法を使うのか、または使えると思える何かがあるのかを質問した。

「うーん?そうね…。一般的には農業や漁業、雑用などを行う時に使われるわね。それこそ、少し前から最下級魔法を”生活魔法”と呼ばれる様になった位には浸透し始めたんじゃ無いかしら?」

母は右手を顎の下に置いて顔を上に向けて悩む仕草をしながら俺の質問に答えた。

「リオ君、アーシャの言う通りだよ。最下級魔法は他の魔法とは違い威力や消費魔力が低い事や私達の様な戦闘職以外でも扱える事なとから15年くらい前に”生活魔法”と呼ばれ始めたんだよ。」

祖父は母の言葉に続くように最下級魔法から生活魔法と呼び名が変化した流れを簡潔に答えた。

「まぁ確かに”最下級魔法”って名前の響きが悪いしね。」

俺は祖父達の言葉を聞いて心の中に何かがスタンっと落ちたように何度も頷きながら苦笑いする。”最下級”という言葉の響きは、聞き方によっては魔法の見た目も相まって相手を馬鹿にしている様な気さえ感じてしまう。

俺は、被害妄想で無ければ最下級魔法しか使えなかった場合に底辺魔法使いと揶揄する前世にあったマウントを取るのに適した言葉だと感じたからだ。

「うん。それに最下級魔法を魔法扱いにするかどうかの議論は昔からあった事も改名の理由だよ。この魔法は系統に囚われないと言う意味で自由度が高い分、他の魔法に比べて個人の魔法技能に依存しているから色々と中途半端な魔法という事で何百年も結論が出なかったんだよ。」

「そうなんだぁ。」

「うん、私達は最下級魔法は魔法扱いと思っていたが、20年くらい前に何処から広まった生活魔法の改名の噂が立ち、この討論自体が馬鹿らしくなり15年くらい前に大国首脳会議で決まったんだよ。」

(なるほど。だから爺ちゃん達はあんなに最下級魔法について歯切れが悪かった言い方していたんだ。)

「そりゃ、何百年もそんな討論していたら馬鹿らしく思うよなぁ。って、ん?大国首脳会議?って何なの?」

俺は最下級魔法の位置づけの討論に何百年も費やしていた事実に馬鹿らしいと呆れ果てて納得した。

しかし、祖父の言葉にある大国首脳会議と言う言葉からある程度予想出来るけど良くは知らない言葉に確認の意味を込めて一応質問した。

「そうだね。国で1番偉い王様方が集まってお互いの近況や国同士の方針などを決める会議なんだよ。この会議に参加しているのは、迷宮王国アローゼン・魔法公国フロセミド・軍事帝国ゾルピデム・信仰教国アストミン・遊戯国家ドネペジルの5大列強国と各ギルドが協力して出来たギルド連合エバスチンの合計6つが参加しているよ。」

「ヘェ〜そうなんだ。」

俺は祖父の説明にある程度予想していた通りだった為に特に驚く事は無かった。

(ああ、でも、この会議に参加している団体が少ないな。いや、でも前世でもG7とかG8とかG20とか年代を追うごとに増えてったから国の数は知らないけど多分今世はこんなもんなのかなぁ。)

「うん、そうなんだよ。さて、何度も話がズレてごめんよ、リオ君。この魔法は生活魔法でもあるけど今はあえて最下級魔法と呼ぶよ。」

祖父は良い加減に説明時の最下級魔法と生活魔法とで歯切れが悪かった事を認める様に今回は最下級魔法という呼び名で定義した。

「あ、うん。分かった。」

俺は頭の中で考え事をしていた時に祖父の説明が始まったので少し驚き、一旦忘れて授業に集中し直した。

「それで最下級魔法の事だけど、この魔法は上級魔法を使える頃にその価値を発揮するんだよ。リオ君、先程私はこの魔法の良い点を何と言ったか覚えているかい?」

「えっ?えーっと、確か…。”系統に囚われない自由度の高い魔法”だったっけ?」

俺は祖父の突然の質問に驚き、目を瞑り顔を少し上に向けて祖父の説明を思い出しながら答えた。

「その通りだよ。更に私はこの魔法で下級魔法を再現した時の注意点は何だったかな?」

「えーっと、んー?アレだよね?”消費魔力が多くなる事と下級魔法に比べて威力が半減する事”だったよね?多分だけど確かその筈。」

俺は祖父のさらなる質問に少しだけしどろもどろしながら自信なさげに祖父に確認する様に答えた。

「そうだよ。それじゃあ上級魔法が放てる程の魔法技能と魔力を持った私達がこの自由度の高い魔法を使おうと思うと何ができると思う?」

「っ!?はっ、えっ?もしかして出来るの?自分だけの系統以外の魔法を創って放つなんて事が出来るの?本当に?」

俺はこの時に初めて祖父の質問した意図を理解した。それと同時にその事実を信じられず、頭の中が混乱しながらも確認した。

「うん、出来るよ。まぁ本当に威力は期待出来ないし、消費魔力も馬鹿にならないけど。」

祖父達を見ると俺の反応に面白さを感じたのか母は言葉を発しなかったが、目尻を下げて口角が上がりより深い笑みを見せた。

祖父はそんな母を見ながらも苦笑いしつつ右人差し指で右頬をポリッポリッと2,3度かいた。

「それじゃあ、何の為に作るの?趣味?」

俺は祖父の苦笑いに自分だけの魔法創りは凄いけどとても大変だと言う事に気が付き、祖父の異名から趣味で創っていると考えた。

「勿論、趣味でもあるよ。魔法創りは楽しいからそれも理由の一つだよ。他に何か考えられる事はあるかい?リオ君。」

「うーん?趣味以外かぁ。何だろう、不意打ち?」

俺は趣味以外の使い道を特別考えていた訳では無い。その為に頭の中にパッと浮かんだ不意打ちと言う戦法を適当かつ悪ふざけ半分で答えた。

「うん、続けてリオ君。」

祖父は俺に何故不意打ちに使えるかを問う為に続きを言う様に促した。

「あ、いや。俺がもし戦闘中に知らない魔法や見たことの無い魔法が飛んできたらきっと驚くよなぁって思ってさ。大師匠や師匠もそうなんじゃ無いかと思って不意打ちかなぁって思った。」

俺は半分は悪ふざけが入っていたから祖父に否定されると思っていた為に余計に困惑した。俺はその後に右手で後頭部をかき少し恥ずかしながら考えと呼べるか怪しい感想を述べだ。

「それも正解だよ。相手が自分の知らない魔法を使ったら私達も分析の為にその魔法を警戒するからそういう時には良い手であるよ。他にはあるかい?」

「あははっ。いや、もう、分かんないなぁ。他には何の為に創るの?」

俺は意外とまともな理由があったことに苦笑しつつ両手を後頭部の後ろで組み笑いながら祖父の質問に降参の意識を示した。

「私個人としては魔法の成り立ちを考察する為に作るけど、大抵の場合は戦闘中に相手に恐怖心を与える為に作ることが多いよ。」

「戦闘中に恐怖心?」

俺は戦闘自体に恐怖と緊張が既にあると思っていたので祖父の言う恐怖心を与えると言う言葉に疑問を持ち首を傾げる。

「うん、リオ君はさっき知らない、見た事ない魔法が飛んできたら驚くって言っていたよね?」

「うん、言ったね。」

「もし、その魔法の見た目が生き物の見た目をしていたらどう思う?」

祖父は少しだけ意地が悪そうな笑みを浮かべながら魔法の見た目について言及した。

「ゔっ。そ、そりゃ怖いね。だって魔法じゃ無くて何かそう言う生き物だと思うし。それに俺の魔力感知じゃまだ魔法か生き物かの区別は出来ないから余計にね。」

俺は祖父の質問の意図に頭の中でパッとイメージ出来た為に顔を顰めた。ちなみに俺がイメージしたのは前世でも夏場に家に忍び込んだ”台所の悪魔”・”黒光するカサカサと動く奴”、Gと言えば大体伝わるアイツだった。

仮に魔法で全くもって作る必要は無いのだけどバスケットボール位の大きさの奴の見た目をしたダークボールに正気を保てるか自信がなく、そういう意味でも恐怖だと思った。

(それと魔力感知って今は俺のナドだけを感知しているけど、行く行くは前世の小説であった魔力探知的な技能があるのか、それとも延長線上にあるのかどっちなんだろうなぁ。)

「うん、それが普通だよ。特に戦闘中は相手の強さが分からないから魔法が相手の強さの基準になる事が多いんだよ。そこで相手がドラゴンの見た目をした未知の魔法を使えば、相手に恐怖を与え精神的攻撃をする事が出来るんだよ。仮にそうなら無くてもハッタリの材料になるよ。」

「未知の魔法で精神攻撃かぁ。考えた事なかったなぁ。」

「人に限らず魔物もそうだけど生き物って未知の物を見るとそれが、何だろう?って言う風に興味を持つのと同じくらい恐怖を覚えるものだよ。それが本能だから当たり前なんだよ。それじゃ、リオ君。相手は戦闘中に恐怖を植え付けられたらどう思う?」

「とても嫌だと思うよ。戦闘中なんて、とても集中しなくちゃいけないのに多分、俺は余計な事を考えてしまって集中出来ないと思うんだ。特に漠然とした相手の実力が自分よりも上かもしれないと言う焦りでどうすれば逃げられるか?や本当に俺よりも実力が上なのか?って色々考えちゃうからね。」

俺は正直言って只々説明される事や質問だけに答えるよりもこういう風に聞いてきてくれる事で自分の事の様に捉えやすく祖父の配慮に嬉しさを感じ答えた。

「そうだね、そうなってくれるとこのハッタリは成功したと言えるよ。戦闘とは、相手の嫌がる事を最も適した瞬間にどれだけ行えるかが重要だから色々出来る事はそれだけ戦いの流れを味方にできるんだよ。リオ君、分かったかい?」

「なるほど。うん、分かったよ。」

「さて、何度か話がズレてしまったけどこれで一通りの座学は終わりだよ。お疲れ様、リオ君。」

祖父は両手を胸の前でパチンッと1回叩くと俺に座学の終了を伝え労いの言葉を掛けた。

「お疲れ様、リオ。良く頑張ったわ。」

母は祖父の言葉に続くように労い、両膝を曲げて俺の頭を何度も優しく撫でた。

「お疲れ様でした、大師匠、師匠。」

俺は立ち上がり祖父と母に体を向けて最敬礼を行い挨拶を返した。

「うん。この後、リオ君には実際に水と土の最下級魔法を行ってもらい、魔力酔いを体験してもらって今日の授業を終えるよ。」

「リオ、魔法の使用や魔力酔いは魔力放出でも分かるようにかなりの体力を使うから少し休憩にするわ。良いね?リオ。」

「うん、分かったよ。ふぅーっ。う、あぁーっ疲れた。でも、色々知らない事が知れたし楽しかった。」

俺は祖父と母の言葉を理解してその場に寝転び背伸びや首をグルっと時計回りに2,3周回した。

授業中は立ったり座ったりしていたが疲れが溜まっていたのか、身体中の肘や背中、首からはゴリッゴリッと良い音がして少し疲労が和らいだ。

「そう言って貰えると私達もやっていて良かったよ。」

「うん、そうね、父さん。」

祖父と母は俺の様子を見て微笑ましいものを見るように笑う。俺たちは少しだけ休憩を行った。

 

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