「それじゃあ、リオ君。喜んでいる所で悪いけど、この魔法で魔力が無くなるまで何度も行い魔力酔いを体験してみようか。」
祖父は申し訳なさそうに笑い、真面目な表情で俺を見つめて修業再開を促す。
「う、うん。そうだった…。まだ魔力酔いが残ってんだっけか…。あっ。でも先に水魔法も練習した方が良いんじゃ無いの?俺、まだまだ魔力と体力に余裕があるしさ、やった方が良いんじゃ無いの?」
俺は初の魔法成功で忘れていた魔力酔いに言葉を詰まらせる。そして、俺は祖父達に土以外の魔法も覚えた方が良いと提案する。
「リオ、水の最下級魔法はまた今度にしましょうね。今は魔法を使い慣れることが大事よ。恐らくさっきの土魔法はノムルス族の血が濃い分、無意識的にナド内の土魔力を分けて使うことが出来たんだと思うわ。だから水魔法は今のリオには難しいから土魔法を使い慣れた方が良いわ。父さんもそれで良い?」
母は俺の提案に対してやんわりと断る。そして先程の魔法が出来た要因について考察と解説を行った。そして母はそれについて祖父の意見を尋ねた。
「うん、勿論だよ。私はアーシャの方針に異論は無いよ。リオ君、水魔法はまたの機会に行うから今は土魔法に慣れるんだよ。」
祖父は頷くと俺の視線に合わせる様に少しだけしゃがみ込み俺の頭を撫でる。
「うん、分かった。ふぅーっ。んじゃ、気を取り直して…。”我願う。土よ、盛り上がれ。”…。アレ?失敗した…。すぅーっ。ふうーっ。集中、集中しろ、俺なら出来る、さっき出来た。”我願う。土よ、盛り上がれ。”…。ヨシッ!もう一回だ。”我願う。土よ、盛り上がれ。”…。ウシッ!」
俺はもう一度頭の中で想像して土魔法を使うが何も起きず失敗した。まだまだ集中力と熟練度が足りない事もあるが、二度目て成功した事で調子に乗ってしまい少し自信過剰になっていた。その為に俺は深呼吸をし直しもう一度行い、今度は成功した。
「リオ、その調子、その調子。」
「リオ君、頑張るんだよ。」
俺は母と祖父の応援に応えようと必死になり丁寧に、ゆっくり土魔法を発動し続けた。5回くらい成功した後に集中力が高まった俺は回数を忘れるくらい没頭した。
「はぁーっ。はぁーっ。はぁーっ。はぁーっ。スッゲェーきっついな。すぅーっはぁーっ。すぅーっはぁーっ。」
俺は集中の所為か単純に魔法発動の所為かは分からないが物凄く体力を使い頭からは滝の様な汗が流れて背中や脇も汗だくで疲労感を強く感じていた。
俺は両手を地面に着いた状態から膝立ちの状態に姿勢を伸ばし両手は腰骨辺りを掴んで休んだ。俺は頭から流れ落ちる汗を鬱陶しく思い顔の両側面を両袖で拭き、顔面を裾をたくし上げる様にして拭いた。
「こら!リオ、服が黒くなるでしょ!汗を袖や裾で拭わないの!汗を拭く時はアタシが手拭いを持っているからそれで拭きなさい!」
母は俺の汗拭き行動に突然大声を出し魔法鞄からだと思われる鞄から手拭いと水筒を取り出した。
「へっ?母ちゃん、手拭いってあんの?」
俺は母の突然のお叱りに甲高い変な声で驚き、修業時の意識から普段の意識に切り替わった。
「水筒の準備が出来ているのだから手拭いの用意もしてあるわよ。お仕置きよ、リオ。ほれ、ほれーっ。」
母は俺の質問に何を当たり前なことを聞いているのかと真顔で答える。そして、お仕置きと言い満面の笑みで手拭いで俺の顔や頭を拭き出した。
「むぐっ!?わっ!?ちょ、母ちゃん!汗くらい自分で拭けるってば!」
俺は母の行動に驚き、くすぐったい様な苦しい様な、懐かしい様な不思議な気分で抵抗した。
「あはは。あの子も母親かぁ。そんなに実感が無かったけどあの子も立派になって。」
祖父は母と俺の攻防を見て笑いつつ、子供の成長を見てしみじみしていた。
「爺ちゃん!笑ってないで母ちゃんを止めてよ!」
「あはは。はいはい。アーシャ、リオ君で遊ぶのはもうお終いだよ。」
「うふふ、分かったわ。ほら、これも飲んで休みなさい。次からはアタシもリオに見える様に用意しておくけど、服で汗を拭たら服が黄ばんで直ぐにダメにしちゃうからやらない様にね。リオ、分かった?」
母は手拭いと水筒を俺に渡すと服で汗を拭かない様にと注意する。
「な、なんて理不尽な…。はぁーっ。なんか、余計に疲れた…。」
俺は右手で汗を拭き、左手で水筒の自家製ポーション水を飲みながら母の理不尽さを嘆いた。
「リオ、返事は?」
「はい。」
「うん、それで良し。それでリオ、残りの魔力はどのくらいあるか確認してみて。」
「えっ?うん。師匠、分かった。」
(ステータス表示)
[力量]
魔力3/23
(あっ。やっべ。爺ちゃんと母ちゃんの約束を忘れていて早速破っちまった。気をつけねぇと折角の修業が勿体ねぇし反省しようっと。)
俺は土魔法を成功させる為に土に対する想像に集中しすぎて何度発動したか正確に覚えていなかった。恐らく10回くらいはやった様な気がするが、正直少しでも気を抜くとさっきみたいに不発で終わってしまうから、何回やったか数えること自体を忘れていた。
俺は祖父と約束した魔力に限らず力量が減少する度合い的な感覚を意識せず忘れていた事に反省した。
「師匠、俺の魔力は後3残っているよ。」
「うん、それじゃあリオ君。後3回土魔法を使ってみるんだよ。それとリオ君。魔力酔いの助言だよ。気をしっかりして、声とか動きとか感情とか我慢してはいけないよ。身体の思うままに任せて抵抗しない方が早く終わるよ。」
「わ、分かった。やってみる。”我願う。土よ、盛り上がれ。”ふぅーっ。怖ぇなぁ。”我願う。土よ、盛り上がれ。”すぅーっはぁーっ。すぅーっ。ははぁーっ。ああ、怖ぇよぉ。」
俺は魔力酔いが近づいた事に母の経験談や祖父の説明を思い出し未知の苦痛に恐怖を感じ身体を震わした。
土魔法を1回目使うと恐怖のあまり地面に手をついた右手が小刻みに痙攣したかの様に震えているのを感じた。2回目を使うと両手から血の気が引いていくのを感じ今まで暑かった身体が次第に寒くなり右手だけでは無く全身が震えていた。
「リオ。」
母は怯えて知らずに目に涙を浮かべていた俺を優しく温める様に抱きしめる。
「母ちゃん…。」
俺は母の突然の抱擁に戸惑いつつも暖をとる様に強く抱き返すと次第に血の気が戻っていくのを感じた。
「無理そうなら今じゃ無くて良いのよ。アタシたちはリオの出来っぷりに少し焦らせ過ぎたわ。だからそんなに怯えているならまた今度にしましょう。ね?」
「うん、私も焦らせ過ぎたよ。リオ君の学習意欲に嬉しくなっちゃって、君を疎かにしていたよ。ごめんよ、リオ君。今日の修業はここまでだよ。」
母と祖父は俺の怯えっぷりに自身の反省し俺に逃げ道を与える様に修業終了の宣言した。
「爺ちゃん…。母ちゃんもありがとう。それとごめん。俺、弱気になっていた。でも2人のおかげで勇気が出たよ。だから、もう少しだけ頑張るから見てて。”我願う。土よ、盛り上がれ!”」
俺は母と祖父の愛情を感じていた。俺は抱きついている母を優しく振り解き2人に感謝と謝罪をする。
自分でも全く子供らしく無いとは思ったがそれでも、この人達に報いたい一心で恐怖に立ち向かう様に顔を強張らせて大声を張り上げた。俺は魔法は成功して土が盛り上がるのを確認すると身体の中からナドが空になるのを感じた。
「っ!?ガッ!?ガッアッガッ!?」
俺はナドが空になって最初に感じたのは全身からゴトが入ってくる事によって呼吸が出来なくなる苦しさだった。
咄嗟に地面に着けていた両手を首に当てて口と両目を大きく開いた。空気を欲している身体が何度も激しく呼吸をするが、今度は息を吸い込む度に両目が上下左右小刻みに揺れ動き焦点が合わ無かった。
「ウッ!アアッ!!グゥッガァッウッウッ!」
俺は咄嗟に両目を強く瞑り視界を遮るが、平衡感覚がおかしくなったのか両膝立ちを維持できず地面に倒れる。そこで追い討ちをかける様に大量のゴドが全身を巡る様に吸収され頭が割れそうな痛みに耐え切れず俺は叫び声を上げた。
そして俺は両手を首から頭を抱える様にして、地面に頭を打ち付けながら左右に転がり意識をなんとか保とうと必死だった。
「はぁーっ。はぁーっ。はぁーっ。ウッ!ウウッオェ
オェェェッ。」
俺の魔力酔いは時間にしておよそ2,3分位が経過するとゴドの強制吸収が無くなった。しかし、俺の中ではこの数十倍の長さに感じた。
ただし強制吸収が無くなっただけでまだ身体中を魔力が激しく巡回している。俺は全身が泥まみれで地面に横向きで寝転び両手で頭を抱えながら呼吸を整えてていると突然巡回する魔力がお腹付近に吸収されるのを感じた。
それと同時に一気に集中した魔力によって胃や腸などが圧迫されるのを感じ頭痛も相まって我慢し切れずその場で嘔吐した。幸いだったのが、昼飯を抜いていたおかげで朝食の未消化と少しの胃液だけだった。
「はぁーっ。はぁーっ。アアァッ…。」
俺は嘔吐し終えると吐瀉物の真左に倒れて修業の疲れと魔力酔いの疲労感で意識が朦朧とした。そして俺は次第に目も前が真っ暗になり気を失った。
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