幼少期の修業・魔法編2-8

探検の書

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「それじゃ、休憩も終わったし本日最後の授業を行うよ。リオ君、覚悟は良いかい?」

祖父は地面に座った時に服に付いた土埃をパッパッパって手で払いながら立ち上がり、俺と母も同じ様にして立ち上がった。その時に丁度良く昼食の金が鳴るのを無視した祖父は服に付いた土埃を取っている俺を横目に質問しする。

「うん、それも良いけどさ。さっき休憩中に昼の鐘がなったしお昼食べてからにしないの?」

俺は祖父の質問に対して、右手でお腹をさすりながら祖父と母に休憩終わりに鳴った事を伝え”お腹減っています”アピールをした。

「リオ、食べても良いけどお勧めしないわ。アタシの経験だけど最初の頃の魔力酔いはとても辛いわ。アタシはその時に嘔吐したから食べない事をお勧めするけどリオはどうする?食べる?」

母は俺のアピールを見て少し渋い表情で魔力酔いの辛さを語った。

「…いえ、遠慮しておきます。」

俺は今まで見た事がない母の表情と語られる内容にビビってしまい左下に目線を外し消沈した表情で思わず敬語で話した。

「うん。それじゃ先ずは土の最下級魔法から行って行くよ。リオ君、準備は良いかい?」

「すぅーっふぅーっ。うん、男は度胸だ…。うん、準備できたよ。どんと来い!」

俺は祖父の再度問いかけられる質問に一度深呼吸を行う。そして普段よりも小さくつぶやく様に自己暗示をしてから声を張り上げて恐怖を誤魔化した。

「はははっ。それじゃやろうか。リオ君、しゃがみ込んで両手を地面に着けて目を瞑ってご覧。」

「うん、分かった。よっこいしょっと。」

俺は祖父の言葉に続く様にその場で両膝を曲げてしゃがみ込み地面に膝をつけて膝立ちの姿勢になった。

そして両腕がピンってなる様に伸ばし手の平を地面にピッタリ着けてまるで土下座をする前の様な姿勢を作り祖父の言葉を待った。両腕をしっかりと伸ばす訳は先程の魔力放出の際に腕がブレない様に固定する為である。

「それじゃあ、頭の中で想像してみて。リオ君が両手から放出した魔力が地面を通り、拡がっていって硬い土を柔らかく揉み込む様な感覚で魔力で土を動かしてみるんだよ。」

「わ、分かった。よし…俺なら出来る…。魔力を流して…土を動かす…動かす。」

俺は祖父の指示に緊張と期待から呼吸が浅く何度も行い、身体の特に口が強張った。

覚悟を決めながらも何度も何度も自己暗示をする為に小さく言葉を発し頭の中で祖父が起こした最下級魔法の結果を思い浮かべた。

「ゆっくりで良いよ。深呼吸して、焦らず、じっくり丁寧に行うんだよ。」

祖父は緊張と不安からガチガチになっている俺を見て俺の左後ろから俺の背中をポンッポンッと2度軽く叩き緊張を解す。

「すぅーーっふぅーーっ。動かす…動かす…土を耕す様な感じ…。」

俺は左耳から囁く様に聞こえる祖父の指示に従い深く、いつもよりも気持ち長く深呼吸を行いより両目を閉じる事で集中力を高めた。

「そのまま”我願う。土よ、盛り上がれ”っと詠唱をするんだよ。」

「”我願う。土よ、盛り上がれ。”…。…?大師匠、師匠、ごめん。何か出来なかった。何で?」

俺は魔力を地面に流し込み前方1m前後まで薄く浸透しながら広がるのを感じた。俺は頭の中で上手くいった昂揚感のまま祖父が事前に起こした結果をイメージして魔力を動かそうとするがうんともすんとも言わず、周囲はしばらくシーンっと静寂が佇んだ。

俺はあまりの手応えの無さに首を傾げ、両目を開けて見るがそこには何も起こらなかった地面が有り、俺は落ち込みながら祖父と母に原因を問いかけた。

「うーん、そうね。魔力探知をする限りリオの魔力の流れからしてしっかりと地面に浸透していたと思うわ。魔語も詠唱できていたしどうしてかしら?父さんはどう思う?」

母は胸の前で右膝を左手で押さえて、右手で頬を突き首を傾げる。如何やら俺の魔法発動がしっかり出来ているか有難い事によく見ていてくれた様だ。

(と言うかやっぱり魔力探知って技能があるのね…。いや待てよ…。ただの呼び名って線もあるし、ステータスの時の様に魔力感知が特定の行動で変化する可能性も考えられるなぁ。ま、今は関係ないからこっちに集中、集中っと。)

「うーん、そうだね。私が考えられる可能性は2つだよ。1つは、リオ君が生まれ持ちの2属性適性持ちだから魔法発動時にお互いの属性魔力が邪魔をし合い発動出来なかった、若しくは発動の規模が小さ過ぎた場合だよ。」

祖父は母の意見に悩ましげな表情を浮かべながらも人差し指と中指の2本を立てて考えられる原因を説明する。

「そうね。でもその場合は属性魔力の相性が特に顕著に関係しているから違うわ。リオのもう1つの属性魔力が仮に土属性に強い風属性適性持ちなら可能性はあるわ。でもリオは、土属性に弱い水属性適性持ちだから相乗効果で威力が増す事が有っても弱まることは無いから違うわ。」

母は祖父の1つ目の可能性については属性魔法の相性の観点から当てはまらないと否定する。

「うん、アーシャの言う通りだよ。それに通常の最下級魔法程度では魔力相性による干渉も高が知れているから今回の場合は違うよ。だから私は、2つ目のリオ君の土を動かす、又は土に対する想像力が足りていなかった可能性があると考えるよ。リオ君は実際にやってみてどう思った?」

祖父は俺の方を向きながら母の解説に自分も同意見だったと共感し更に付け足しの解説を行う。

「う〜ん?そうだなぁ。大師匠と師匠の話を聞くと納得する事が多いと思ったよ。確かに、俺は口では土を動かすって言ったり、大師匠の最下級魔法を頭の中で想像して行ったよ。でも言われてみれば、土がどう言う感触なのか?どう言う匂いか?どう言う硬さなのか?とかそこまで綿密に想像して行ったかって言われると違うなぁ。」

俺はよくよく考えてみれば最下級魔法を使う時に土のイメージが固まった物では無く少しフワフワしているイメージだったと気が付いた。分かりやすく言えば土を想像する時に前世なら家庭菜園や学校の校庭の様な土を想像する。

しかし、俺の頭の中では祖父の魔法の結果を一種の画像や映像の様に捉えていた。俺は頭の中で”土の最下級魔法はこの様に動いたから俺が使ってもこう動く”と土の定義を示していないふわふわ理論で行っていた。故に失敗すると言うか実行されないのは当然だった。

「うん、その感覚は大事にしておくんだよ。私達はある程度の属性魔法を使ったり、相手の魔力を探知したりすると感覚的に属性魔力の違いを感じ取ることが出来る様になるんだよ。だから、リオ君が出来なくて当然なんだよ。」

「そうね。アタシの場合は”色”で分別しているわ。でも父さんは確か”味”だったかしら?」

「そうだよ。でも色でも分別出来るからそんなに気にしていないけどね。リオ君、私達がつまり何が言いたいのかと言うと魔法って意外と感性が必要だって事だよ。感覚を頼りに頭に”土はこう言うものだから体内にある土属性魔力はこれだ!”って繋がりを持たせるのさ。」

「なるほど。良く分かんないけど、何となく分かった気がする。」

俺は祖父と母の会話について行けず不覚にも思考が止まってしまった。しかし、話の流れからして自身の感性や感覚は技能と同じくらい重要視されていて、熟練の魔法使いは魔力を五感で分別できる様になる事が分かった。

「それで良いよ。それじゃあリオ君、次はこの土で遊んでみると良いよ。土を掘り返したり、土の匂いを嗅いだり、一口に含んでみたりなど色々な”土”を感じて見るんだよ。さぁ、リオ君、やってみるんだよ。」

「ヨッシャーッ!全力で遊んでやるぜ!あははっ。って硬!そりゃ大師匠みたいに上手く行く訳無え筈だ。だって思ったよりも固えもん。大師匠!大師匠の柔らかくした土で遊んでも良い?」

俺は外聞とか気にせずにもう子供らしさ全開で遊んだ。転生してある程度成熟している精神だとは思っているが、頭の中で一度それを忘れて無知な子供の様に色々な感覚を楽しんだ。

「うん、好きにやって良いよ。沢山経験する事が今のリオ君に必要な事だよ。」

「分かった!…おぉ、さすが大師匠の土だ。あははっスゲー柔らかい。フカフカだ!うーん?匂いは…臭く無いけど少ししょっぱい感じの雨降る時の湿った空気に似ている気がする。20日前に雨が降ったからかな?味は…うぇっ、不味っ。ぺっぺっ、うぇっ口の中がじゃりじゃりする。」

今の俺は”色々あるけど全く足りていない”そんな状態である。俺は前世の記憶があるとはいえ所詮は別の原理、魔法が無い世界の知識と経験しか無い。俺はこの世界の知識も技能も経験も想像力も感性も足りていない、無い無い尽くしの状態である。

知識や技能は生きていればそれなりに身につくだろう。しかし経験や想像力、感性は全力で得ようとしなければ身に付かない。だから俺は大人ぶるの精神をやめて肉体年齢に合う努力をした。

「ほら、リオお水よ。これで口を濯ぎなさい。」

「ありがとう、母ちゃん。…ふぅーっ。スッキリした。今なら何か出来る気がする!やって見るか!」

「リオ君、その調子だよ。どんどん挑戦して見るんだよ。」

(硬い土…表面は乾燥しているのか砂もあって少しザラザラしている…。先ずは魔力を流し込み浸透させる…このまま魔力を動かしてもビクッともし無い…。だから俺の土魔力で地面をマッサージする様に揉み込んだり…土を掘る様に、掘る様にこねくり回す必要がある…。土魔力…土、ザラザラ、フカフカ、じゃりじゃり、少ししょっぱい生乾きの洗濯物の匂い…。)

「”我願う。土よ、盛り上がれ。”…。おぉ?おお!なんか分かる!これが魔法か!ヨッシャーッ!ウオォーッ出来たぞー!ねぇ!今の見てた!?爺ちゃん!母ちゃん!」

「うふふ。えぇ、初の魔法おめでとう、リオ。その調子よ。」

「あはは。リオ君、おめでとう。これで君も私たちと同じ魔法使いだよ。」

「はははっ!ありがとう!爺、じゃなかった。大師匠!師匠!」

俺は祖父と母の笑顔の祝福に顔を真っ赤にし頬を緩めて右手で後頭部をかきながら照れた。

その後俺は祖父と母に魔法ができた事や褒めてくれた事を感謝を伝える為に2人を呼ぼうとした。そこで初めて魔法の修業中の大師匠と師匠呼びをしていない事に気が付き訂正した。

 

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