俺達は母方の祖父母宅に向かう前に商売通りで手土産である焼き菓子を購入してから神殿通りを進んだ。祖父母宅は比較的に中央地区に近い為、立地的には神殿よりも手前に位置している。
「ほら、もうすぐ着くぞ、リオ。ここがお義母さんのお店の薬屋”ヒイラギ”だ。そして、この2件隣がお義父さん達の自宅になる。よく覚えておけよ。」
「ひ、柊っ?と、父ちゃん、母ちゃん。何でお店の名前が柊って言うの?そう言う植物があったりするの?」
父は祖母の店の名前を確かに”柊”と呼んだことに俺は動揺し店名の由来を聞いた。
(明らかに日本の名字だろ。もしかしてこの時代に俺以外にも転生者や転移者が居るのだろうか?)
「んーっ?そういえば聞いたことがねぇな。母ちゃん、何でだ?」
父は歩きながら胸の前で両手を組み、眉を潜めて視線を右斜め上に向けて自身の記憶を辿った。
「うーんっ。アタシも詳しくは知らないけど、なんかアタシのお祖母さんの師匠に当たる方がやっていたお店の名前を継いだって聞いたわ。正直な所アタシもそれぐらいしか知らないわ。」
母は鳩尾あたりで腕を組み、両目をつむって必死に思い出そうとする。
「ふーんっ。そっかーっ。教えてくれてありがとね、母ちゃん。」
(まぁ、不意打ちだったから思わず動揺したけど、同じ転生者や転移者に会えたところでどうと言う事でもないからいっか〜。謎々を解くみたいで面白そうだけどヒントが無さすぎるし、その内分んだろ。)
「ま、その内お義母さんから詳しく教えて貰えば良いだろ。ふぅーっ。よし、行くか。」
父はドアの前を母に譲り、深呼吸を行う。
(えっ?何で、父ちゃんそんなに緊張してんの?よく見れば母ちゃんも深呼吸しているし。何で?)
俺は母の顔を覗くと緊張しているのか息を整えて玄関をノックする。
「(コンッコンッコンッ)ごめん下さ〜い。誰かいらっしゃいますか?」
「は〜い!何方ですか?」
家の中から女性の声がした。
「アタシよ!母さん。アモンと息子のフィデリオを連れてきたわ。開けて頂戴。」
(そう言えば何気に母ちゃんが父ちゃんを名前で呼ぶのって初めて聞いたなぁ。)
「(ガチャッ)まあまあ!よく来てくれましたね。」
「おお〜っ!よく来たな!」
玄関を開けると長い白髪で若々しい女性と長い青髪で大人の色気を漂わせる、いわゆるダンディーな男性が出てきた。
「この間振りです。お義父さん、お義母さん。」
「まあまあ!アモンさん。それでそちらの子供が貴方達の子供のフィデリオ君?」
「えぇ、遅くなりましたが約束通り連れてきました。この子が息子のフィデリオです。」
「はじめまして、俺は父ちゃんと母ちゃんの子供のフィデリオです。親しい人には”リオ”って呼ばれています。えーっと、よろしくね!キース爺ちゃんにアリア婆ちゃん!」
長い白髪の女性の祖母は少女のように笑っていた表情が固まり、逆に長い青髪の男性の祖父はニッコリ笑い、右手を軽くグーにした状態で口元を隠し上品に笑った。
「はははっ。よろしくな、リオ君。私はキース。君の爺ちゃんだ。」
「コホンッ。リオ君ね、私はアリアです。貴方のお婆様です。お・ば・あ・さ・ま。さぁ、言ってごらんなさい。」
祖母は左手をグーにして口元を隠しながら軽く咳払いを行い俺にお婆様呼びを強制してきた。
「えーっと…。呼びやすくアリア婆ちゃんじゃダメ?」
俺は苦笑しながら困惑し右人差し指で右頬をかいた。
「(ニコッ)ええ、ダメです。言葉遣いは今のうちに矯正しないと損することが多いですからね。なので少しずつ丁寧な話し方を覚えましょうね。」
「あ、はい。えーっと、よろしくお願いします。アリアお婆様。」
「はい。よろしくお願いしますわ、リオ君。」
祖母は膝を曲げると俺と同じ目線まで低くなり頭を優しく撫でる。
「まぁ、アレだ。こんな所で立ち話もなんだ。家の中に入ってお茶でも飲もう。アリア手伝って貰えるかな?」
「ええ、キース。お願いするわ。アーシャ、アモンさんとリオ君を案内して。」
「分かったわ。みんな行くよ。」
祖父母達はキッチンに向かい、俺達は客間に向かった。
「さっきの母さん、ごめんね、リオ。」
母は客間の椅子に座ると突然に苦笑い気味で俺に謝る。
「あ、うん。ちょっと困惑したけど気にしていないよ。」
「ほらっ、母さん、元は貴族の出身だって言ったじゃない?」
「そう言えば言っていたね。四女だっけ?」
「この商売が軌道に乗るまでに言葉遣いやマナーで色々あって苦労したみたいでね。アタシもリオくらいの頃には指導して貰ったんだよ。」
母はテーブルの上に右肘をついて、右頬を右手で支える姿勢で幼少期を思い出しながら言った。
「でも、貴族出身ならマナーとかで苦労し無さそうな気がするけどなぁ。」
「ま、場所によっては丁寧過ぎる対応が逆に怪しく感じる場合もあるってことさ。店を持つ前の旅商人なのに貴族の様な対応されたら平民なら誰だって怪しくも思うだろ。」
(確かに。それに婆ちゃんが旅をしていたのって多分相当若い頃だし、そりゃ疑うよなぁ。)
「それに、一定の信頼を得た状態で雑な対応に慣れ過ぎると今度はそれで怪しく思われてしまうからね。雑な対応は誰でも出来るけど、丁寧な対応は努力が必要だからね。」
「そっかー。」
俺は少しだけ感動した。言葉足らず感はある物の自分の経験を生かして次に生かす姿勢は学ぶべきだと思い、視線を少しだけ下に向けた。
「まぁ、でも本音は孫(リオ)にお婆様呼びされるのが夢だったんだけどね。昔そう言っていたし。」
「えぇ…。」
俺は”あの感動は何だったのか”と後悔する程眉を潜めて頭を引いた。
「みんな、お待たせ。焼き菓子に合う紅茶を淹れてきたわ。早速頂きましょう?」
俺達は雑談を交えながらさっき買ってきた焼き菓子を食べた。
「とても美味しかったわ。ありがとうね、アーシャ、アモンさん。」
「「どういたしまして。」」
「ねぇ?リオ君。君の事をもっと知りたいんだ、質問しても良いかい?」
「私もよろしいですか?リオ君。」
「良いよ、キース爺ちゃん、アリアお婆様。」
祖母は食べている時に話すのはお行儀が悪いと言う事で、全員食べ終えてから俺への質問タイムが始まった。
「それじゃ、私から。リオ君は将来何になりたいか夢はあるんかい?」
祖父は右手を上げて俺に将来について聞いてきた。
「俺の夢…?今は父ちゃん達の様な冒険者になって世界中を見てまわること!そして行く行くは自分だけの冒険譚を作り上げることさ!」
「そうか、そうか。でも冒険者は大変だぞー。それでもやるって言うのかい?」
祖父は笑みを浮かべてながら頷くと真剣な表情になり質問を続けた。
「キース爺ちゃん…。そうだね。今は友達と一緒にアラン爺ちゃんに修業をつけて貰っているんだ!キース爺ちゃんにも友達と一緒に魔法を教えて貰いたいんだけど良い?」
「ああ、良いとも。私は魔法では誰にも負けるつもりはない。私の都合にもよるんだが、先ずはお友達のご両親が良いのであれば私が教えよう。」
「ありがとう、キース爺ちゃん!」
「コホンッ。リオ君は薬学については興味ありませんか?これを知っていれば、万が一の時でもとても役に立ちますよ。」
祖母は俺と祖父の対応に少し残念そうな表情だったが咳払いを行い話を変えた。
「うん、とても興味津々だよ。アリアお婆様。やっぱり色々できると便利だと思うんだよね。だから、ミンク婆ちゃん達に預かって貰っていたとも鍛冶屋の手伝いをやっていたからこっちでも教えて貰いたいんだ。」
「うふふ。まあ良いでしょう。ビシバシ鍛えて差し上げるわね。」
「お手柔らかにお願いします。」
「それではリオ君、お昼を食べた後私が少しだけ訓練を見てあげよう。勿論、明日でも大丈夫だ。予定はどうかな?」
「勿論、空いているよ!お願いね、キース爺ちゃん!」
その後、俺達は雑談をしながら昼食の準備を行い、頃合いに昼食を取った。
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