俺達が歩いて更に5分後に目的地のシルルとメルルの家に到着した。
「2人の家に着いたねー! 居るかなー?」
「居たら良いにゃっ! オイラも2人と遊びたいにゃ!」
「僕もにゃ。それじゃ、早速ノックするにゃ」
ナートはさっきまでの慌てっぷりは無くなり完全にいつも通りの落ち着きを取り戻していた。
「こんにちはにゃっ! 僕達は、ナートとラートとフィデリオですにゃっ! シルルちゃんとメルルちゃんと遊びたく来ましたにゃっ! 2人は今いますかにゃっ?」
ナートが玄関をノックをするが返事がない。
「(う〜ん……出かけているのかな? 何か留守っぽいぞ?)」
「あらあらあら! 3人とも、こんにちは」
正面の玄関では無く左の方から女性の声がするので、俺たちは声の方を振り向く。
「んっ? あっ! アリスおばさん、こんにちは!」
「こんにちにゃっ!」
「こんにちはにゃっ! アリスおばさん!」
声の主はシルルとメルルの母であるアリスだ。アリスは人間種パーソン族アマゾンの女性で黒髪と褐色肌、女性しか生まれない不思議な特徴を持つ一族だ。
アリスは黒髪を三つ編み状に結び方に掛けている感じで、服装は赤茶色の刺繍が入った半袖にホットパンツの上にエプロンを身に付けている細身の美人だ。
「それで、どうしたのかしら? 娘達を遊びに誘って来てくれたの?」
「そうにゃっ! これからオイラ達は、外で遊ぶにゃっ!」
「それで、シルルちゃんとメルルちゃんを遊びに誘いに来ましたにゃっ!」
「アリスおばさん、シルルちゃんとメルルちゃんは、今いますかー?」
「うふふ、丁度居るわよ。シルルー! メルルー! ラート君達が来てくれたわよー!」
アリスは家の裏の方に聞こえるように大きな声で2人を呼んだ。
「えっ!? 本当! お母さん! 今行くー!」
「あっ!? 待ってよ! シルルお姉ちゃん! 私も行くー!」
家の中から”ドタッドタッドタッ”って言う急いで走ってくる足音が聞こえる。
それに合わせて俺達は玄関から少し離れるように後ろへ歩く。
「みんなーお待たせー! 今日はどうしたの?」
シルルは案の定、勢いよく玄関の扉を開く。あのまま近くに居たら俺たちの内の誰かが、扉と激しいキスをしていただろう。
「もぅーっ! シルルお姉ちゃん! 待ってって言っているでしょ! あっ! みんな、こんにちはー!」
メルルは姉に怒りつつも、俺達と目を合わせると同時に怒り顔から笑顔になった。
「シルルちゃん! メルルちゃん! オイラ達、遊びに行くんだけど、一緒に遊ぼうにゃっ!」
「急なお誘いなので断っても大丈夫にゃ。どうかにゃ?」
「アッハッハ! 実は、俺もまだ何して遊ぶか聞いていないけどね! 2人とも一緒に遊ぼうよ! ね?」
「えっ、でも……」
シルルは何かを躊躇う様にアリスおばさんを見る。
「うん……」
メルルも躊躇う姉に同意する様にアリスを見る。
「2人とも、折角だから遊んでいらっしゃい。家のお手伝いは、また今度にしましょう。ね?」
アリスは娘からのお願いに遊びの許可を出す。
「「やったーっ!」」
「うふふ。っと言う事だから3人とも2人をよろしくお願いね」
「勿論です!」
「「勿論にゃっ!」」
「うふふ。それじゃ、あと少しでお昼の鐘が鳴るし、折角だからお昼食べていくかしら?」
「いえ! 俺の父ちゃんから1,000R貰っていますので、それを5人で分けるつもりです」
俺がそう言うとナートは首元から紐で掛けているお財布をアリスに見せる。
「まぁ!? アモンさんが? 娘達の分も? でも1人200Rじゃあご飯食べたら無くなるわね……私からもお駄賃あげるからこれで遊んできなさい。はいっどうぞ」
アリスは魔法鞄であるポーチサイズの鞄から銀貨十数枚と人数分のお金を入れる小袋、それら全てが入る手提げの鞄を取り出し俺達に渡す。
「えっ!? こんなに貰って良いんですか!? それも人数分の入れ物まで! ありがとございます! アリスおばさん!」
「うにゃっー!? 大金にゃ! 大金持ちにゃ!」
「ラート! お、落ち着くにゃっ! アリスおばさん、ありがとございますにゃっ」
「お母さん、ありがとう! よっ! 太っ腹!」
「シ、シルルお姉ちゃんっ! そんなこと言っているとお母さんが、ひぅっ!?」
俺達は各自アリスに感謝を述べると突然メルルが慌て始め、空気が凍った。
「うふふ……ねぇ? シルル、私の何処が太いですってぇ?」
右手を頬に当てて、首を傾げると言う可愛い仕草でニッコリと笑うアリスだが、その笑みには有無を言わせない圧があり、笑っていない笑みを浮かべた。
「ひぅっ!?」
妹同様小動物の様に怯えるシルルは完全にやらかしたと顔を真っ青にしていた。
「うふふ。娘の指導はこれくらいにして。シルル、冗談よ。比喩表現だって事は分かっているわ」
「も、もーっ! お母さんの冗談は、分かりづらいからやめてよねーっ!」
シルルはアリスの発言が冗談である事を理解すると場の空気を和ませようと笑顔で話す。
「うふふ。でもね、シルル、”気前が良い”とか別の言葉があるのに態々私のお腹を見てそれを言ったのかしら? もしかして、いつもの意趣返しのつもりなのかしら? うふふ……もしそうなら、シルルもメルルも後で覚えておきなさいね」
笑顔ではあるが、アリスは目の前でネズミを見た空腹の蛇の様な妖しくも色っぽい笑みで自身の娘たちを見ていた。
「ちょっ!? お母さんっ!? 私は何も言っていないよーっ!」
メルルはそんな姉のとばっちりを受けて驚く。
「ご、ごめんなさ〜い! お母さん! そんなつもりは無かったってば〜っ!」
当人のシルルは”あっ、やっべ、地雷踏んだ。”と思っているのかマナーモード携帯電話の着信並みに体を震わせ一生懸命謝罪している。
「うふふ、どうしようかしらね」
アリスはそんな2人を見て終始ニッコリ笑って楽しんでいる。
「(ねぇねぇ、ラート君、ナート君。女の人に体型に関わる軽率な発言って怖いね)」
「(にゃぁ〜オイラ、思わず全身の毛が逆立ったにゃ……)」
「(僕もラートと同じにゃ……みんな、今度から気をつけようにゃ……)」
「(異議なし)」
「(にゃぁっ)」
俺達はそんな側で被害を受けない様に見つからない様に小さくしゃがみ小声で話し合う。
「それじゃあ、アリスおばさん。俺達そろそろ遊びに行きたいので、シルルちゃんとメルルちゃんをお借りしても良いですか?」
「そ、そうにゃっ! そろそろ遊びに行きたいにやっ!」
「シルルちゃんもメルルちゃんも早く行こうにゃっ!」
「うふふ。2人ともお仕置きはここまでね。楽しん遊んでいらっしゃい」
「「は、は〜いっ! 行ってきま〜す!!」」
俺達は貴族街前門の前にある広場に向かった。
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