現在、俺達は王城から南に位置する第四門を繋ぐ”商売通り”と言う大通りにいる。商売通りと言う大通りは商売が他の大通りよりも一層盛んに行われている場所だ。
出店、高級店、雑貨屋、小規模商会など様々で溢れている。中央地区に近ければ近い程物価の高い物やサービスを提供する店が多く、反対に第四門に近い程物価が安い。
「うぉ〜! 人混みスッゲ〜! ねぇ、ねぇ、ラート君、ナート君、俺が迷子になったら探すの面倒だし手を繋いでも良い?」
「(こんな人混みは、この世界に転生してから初めて見たな……まあ、でも東京はこの数倍は有に居たから懐かしいなぁ。あっでも、あの頃は何で感動しなくなったんだ? 不思議だ)」
「っんにゃ? 良いにゃっ!」
「そうですにゃぁ……この人混みだと、確かに迷子になったら面倒にゃ」
「それなら〜もし逸れた時の集合場所を〜あそこの広場の噴水にしようよ〜」
メルルは迷宮通りと商売通りの間にある広場の噴水を指さす。
「そうだねー。メルルの言う通り、あそこはアタイらも良く集合場所にしているから分かりやすいしね」
俺を含めた全員は俺の提案に同意し集合場所も決める。
「いや〜本当にみんなごめんね……俺、実はこの通り来るの初めてでさ〜迷子になる自信しか無かったんだ。あははは」
俺は商売通りに来る事は初めてだった。ミンク・アラン祖父母宅がある迷宮通りは1人で出歩く許可を両親から貰っているが他の大通りはまだなかったからだ。
更に言えば今のところ祖母の鍛冶屋がある迷宮通り以外に行く用事がない事が最大の理由だからだ。
「良いにゃっ! リオとメルルちゃんは、まだ子供にゃ! 困ったらオイラ達に甘えるにゃ!」
「ラートにしては良い事言うじゃん。メルルもリオの様にアタイに頼って良いんだよ」
「シルル姉っ! アタイは子供じゃ無いよ! リオの様に迷子にならないもんっ!」
メルルは自身がお子様では無いアピールをする。
「えっ? でも、俺とメルルちゃんって同い年だよね? 頼れる時は頼ったほうが良く無い?」
「リオは少し静かにしてっ!」
「へーい」
「あははにゃっ。リオ君、ドンマイにゃ」
「まあ良いや。みんな、早く店を見に行こうよ! 俺もう腹減って死にそうだから、ハイ」
俺は当初の予定とは違く右手にシルルちゃん、左手にメルルちゃんの手を握った。
「おおっ? リオは、ラート達と手を繋ぐんじゃ無かったのか?」
「いや〜両手に花って憧れるよね? 手を繋げるなら一度やってみたったよね〜。シルルちゃんとメルルちゃんは嫌だった?」
「(それに、もし手をつなげたらナート君とシルルちゃんが手を繋ぐって言うシチュエーションが作れるかも知んないしね。俺も女の子と手をつなげてハッピー、迷子にならずに済むし万々歳だ)」
俺は透かさず2人の両手を離した。それと同時に左目をウィンクしメルルちゃんとラート君にアイコンタクトをする。
「くっくっく。リオは正直だな。良いよ、ほらっ、右手を出しな」
「っ!? リオのマセガキ〜まあ、リオは、お子様だから仕方ない。ラート君、こっちの手を繋ごう」
メルルは、どうやら俺のウィンクの意図を気づいた為にラート君と手を繋ごうとする。
「んにゃ。メルルちゃん、オイラの右手を握るにゃっ! ナートは、シルルちゃんと右手を握れば良いにゃ」
そっけなさそうに知らんぷりするラートは俺の起こしたフラグをしっかり回収する。
「んなっ!?」
体を一歩引きシルルは、さっきの方を思い出したのか顔が赤くなり恥ずかしがる。
「にゃにゃっ!?」
ナートは嬉しい様な恥ずかしい様な表情でアワアワしている。
「うん? 2人ともそんなに慌ててどうしたの? 早く行こうよ」
俺は取り敢えず揶揄う表情をすると2人にバレてしまうので、冷静に知らんぷりする。
「そうだよ〜シルル姉。アタイも〜お腹すいちゃったな〜。早く〜お店探ししたいな〜」
「ほら、2人もそう言っているし早く手を握るにゃ! こんな所に突っ立っていたら他の人達の通行の迷惑になるにゃっ!」
2人も俺に乗っかり知らんぷりする。
「う、うん……ナート君、ハイ」
「にゃ、にゃあ〜……にゃ、にゃい、シルルちゃん」
俺は彼等を正直に初々しいと思った。
「(まだだ、まだ足りない……チャンスは作った……フラグ立てたのは俺だ……なら、最後まで攻めるのは俺だ。俺がやらなくちゃ誰がやる!)」
「ヨッシャーッ! 飯の時間だーっ! みんな、早く行こうぜ!」
あくまで子供っぽく他の人に迷惑かける様に俺は、これではまだ足りないと突然走り出すって言うハプニングを起こす。
「ちょっと〜リオ〜急に引っ張らないでよ〜。あとこんな所を走ると危ないよ〜」
「にゃははははっ! 走るの楽しいにゃっ! リオ君に負けられないにゃ!」
2人は急な事で驚くが直ぐに対応する。
「ちょっ! うわぁっ!?」
しかし、俺とラートに突然引っ張られたシルルはバランスを崩し前に倒れそうになる。
「にゃっ!? リオ君、ラート! 急に走らないにゃっ! シ、シルルちゃん、だ、大丈夫ですかにゃ?」
ナートは空いている右手で俺の右手を掴み静止させて、シルルの右手を握りながら前から倒れそうになる身体を支える。
「あっ……うん……ナート君、ありがとうね」
赤面に俯きながら視線をナートに向けるシルルは口元を少し緩めた。
「いや〜シルルちゃん、メルルちゃん、ナート君、調子に乗ってごめんね」
「(ちょっと調子に乗りすぎたな……いや、でも、あれは成功か? どっちか分かんないな……もしかしたら、余計なお世話だったかもなぁ)」
「にゃあ……オイラも便乗してはしゃぎ過ぎたにゃ。ごめんにゃ」
「アタイは良いよ〜……シルル姉の良いのが見れたし、むしろリオ良くやった……」
にっこり微笑むメルルはボソッと俺だけに聞こえるように呟いた。
「ああんっ? メルル、何か言った?」
妹メルルから”ボソッ”と呟かれた自身の名前にシルルは不思議そうに聞き返す。
「何でもな〜い」
「はぁーリオ次からは気を付けろよ。まぁ、アタイらが……その……手を握るのに時間が掛かったのも原因だからお互い様だし」
「にゃ、にゃあ……でもリオ君、ラート、今度から気をつけるですにゃ」
2人して身体をモジモジとするナートとシルルはお互いに視線をチラチラと恥ずかしそうに向け合う。
「は〜い」
「(2人に幸あれ! それとラート君もメルルちゃんも今度会ったときに正式に謝っておこっと。大分迷惑かけたしやるならやるで事前に言っておこっと)」
「にゃあ〜」
「それじゃあ、シルル姉、ナート君、改めて行こうよ〜。」
俺達は今度こそ昼飯を食べに行くことにした。
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