「はぁーっ。ウダウダしていてもしゃーねぇっ。うしっ。お前ら注文はどうするんだ?」
「ん〜っ?オジサンここはなんのお肉を売っているの〜?」
メルルがおっちゃんに質問する。
「色々だな。全部迷宮産の魔物で一食分を安い順から言うとバウンスシープ(跳躍羊)1,500R、トラックドッグ(追跡犬)1,600R、ノイズキャット(騒音猫)1700R、ファイティングラビット(格闘兎)1,800R、リコシェマウス(跳弾鼠)2300Rで扱っている。」
「おっちゃんのおすすめのお肉ってあるの?」
俺は1番高そうなリコシェマウスが唯一2,000R超えだからおすすめと予想するが必ずしも値段が全てではないと思いあえて質問した。
「この中でなら…。やっぱり今日の目玉はリコシェマウスだな。何故なら本来ならリコシェマウスはこんな出店に出る事は稀にしかない。」
「にゃっ?おっちゃん、何でにゃん?」
「そうだなぁ…。やっぱり”在庫数が足らないから”が1番だな。リコシェマウスは全長60cmの焦げ茶色の皮のまん丸なネズミでな。まず他の魔物に比べて小さいから食べる箇所も当然少なくなる。次にコイツの特徴である全身の筋肉に非常に高い弾力性がある為か、大抵吹っ飛ばされるとその衝撃を吸収して地面や木、洞窟に敵味方問わず跳弾しながら攻撃するからとても厄介な魔物なんだ。」
「それは…厄介ですにゃ…。一体どうやって倒すのですかにゃ?」
ナートはリコシェマウスの詳細を聞いて苦虫を噛み潰したような表情で目を顰める。
「一撃で仕留める事か毒を使い動けなくする事、怪我を覚悟に受け止めて仕留める事などが挙げられるな。」
「なーんだっ。結構倒し方があるんだねーっ。アタイはもっと難しいもんだと思ったー。」
シルルは思った以上に選択肢がある事に安堵し逆に落胆した様な表情を浮かべた。
「実はそうでもねぇんだ。コイツの最大の特徴で厄介なところは仲間を呼ぶ事だ。コイツは群れで行動している魔物でな。コイツと戦うと最低でも10体は同時に相手をする事になるんだ。」
しかし、おっちゃんはまだ言い足りないと思ったのか首を左右に振りリコシェマウスの最大の特徴を言った。
「うぇ〜っ…。面倒くさっ。」
「それにさっきも言ったが、コイツは”敵味方問わず跳弾しながら攻撃してくる”って。」
「それって、つまり…マジ?」
俺はおっちゃんが意図的に強く言った言葉を聞いて頭の中で想像し青ざめた。
「嗚呼、おおマジだ。コイツは”複数の群れ同士で跳弾仕合ながら攻撃”してくるんだ。」
「えっ!?あ、えっと…。おじさん、リコシェマウス?はどのくらいの強さなの?」
メルルは予想外の事で驚愕しその強さについておっちゃんに質問した。
「売りに来た冒険者が言うには、獣轟の門で最弱の強さだ。しかし、その数と攻撃手段、跳弾時に他の魔物に当たることで起こる乱入戦闘などなど、同時に最も厄介な魔物でもあるって言っていた。故に素材の肉質もさる事ながら、多くの冒険者は戦闘を避けて市場不足で高値で取引されているんだ。だから、申し訳ないがお前らは今日は頼まないでくれ。頼む…。」
おっちゃんは俺たちに頭を深々に下げる。
「にゃあ?みんな。おっちゃんがここまで頭下げているから今回は1番安いバウンスシープ(跳躍羊)にしようにゃ。」
「ラートの言う通りですにゃ。ここまで安くして貰ったんですから僕もラートの意見に賛成しますにゃ。シルルちゃん、メルルちゃん、リオ君もそれで良いですかにゃ?」
「「「さんせーっ。」」」
俺達は値切るためとは言え悪ノリをやって多少なりとも迷惑をかけたのでおっちゃんの頼みを聞いた。
「お前ら…。すまねぇ、助かるぜ…。」
「ただし!(ぐぐぉぉ〜っ!!)おっちゃん、腹減ったから沢山頂戴。」
「実は(ぐぉ〜っ!)オイラもにゃ!腹ぺこにゃ!」
「ははっ。おしっ、任せろ!今焼いてやっからな!」
おっちゃんは頭を上げる少し申し訳なさそうな表情だった。しかし、俺とラート君の腹の音を聞くと、次第に調子を戻すかの様に笑顔になり薄切りにされた肉を鉄板で焼き始める。
「おっちゃん!肉を焼いたらアタイらのパンに挟んでくれ!」
「おう!味付けは塩、胡椒で良いな!よしっ、ついでだ、そのパンも軽く表面を焼いてやっから貸してみろ!」
おっちゃんはまるでついでだっと言わんばかりに鉄板上でパンの各面を焼き始める。
「よろしくね〜、オジサン。」
「よろしくお願いしますにゃ。」
「これをこうしてっと。ほらよ、茶髪の坊主。バウンスシープサンドだ。冷めないうちに食え。
「おっちゃん、ありがとう。」
「おう、次は妹の方な、ちっと待ってろ。」
「リオ君、先に食べていて良いにゃ。」
俺は一応みんなが揃ってから食べようと待っていると突然ラート君に食べても良い事を許可される。
「えっ?でも…。」
「メルルと同い年が気にし過ぎなんだよ。気にせず食えよ。」
ラートに続いてシルルも遠慮するなと俺に許可をする。
「そうですにゃ、おじさんも”冷めないうちに”って言ってましたにゃ。食べると良いですにゃ。どうせ」
「ほら、妹の方。受け取ってくれ。」
「僕らも直ぐに食べるから大丈夫ですにゃ。」
ナートもシルルの言葉に続けて俺に許可をした。そしておっちゃんを見ると彼が想像以上の速さでメルルのサンドを作り終える。
「分かったー!んじゃ先に食べるね!それにしても良い匂いだ。ん〜っ、香ばしい麦の匂い。(パリッパリッ)…。甘くて美味い!」
「ははっ。甘くて美味いか、そいつは良かった。」
「まずこのパンを再度焼いたおかげでパリッと言う音がして良い歯応えだった。(パクッ)小麦の素材の甘さもあるけど、この素朴で優しい甘さじゃないな…もっとこう、舌を刺激するこの甘さってもしかして…!?」
「その通りだ。バウンスシープは肉だけではなく羊乳も美味しくてな。糖度が高い羊乳が取れる為に肉全体がほんのり砂糖水に浸したみたいに甘いんだ。ほら、姉の方も出来たぜ。冷めないうちにな。」
「だからかっ!?塩胡椒が良い塩梅で、塩のしょっぱさと胡椒の辛さや風味が甘いパンと肉をより引き立たせている!(パクッパクッ)…美味い!」
俺は空腹も合間ってか心の中の呟きが口から漏れていた。興奮のあまりその事に気が付けずおっちゃんと会話していた。
「ははっ。良い舌持っているじゃねぇか。この塩と胡椒も迷宮産でな、何故か塩の実と言う植物が生えているんだ。それを割ると岩塩の様な粒が出てくる不思議な植物でな。バウンスシープも草食獣だから相性が良いんだ。ほら、双子ども、たんと食え。」
「ああ、うめぇ。そして、口直しにジュースを飲むとまた違った美味しさを感じる。ドロっとした甘酸っぱさだけど直ぐにスッと後味を残さないからこのサンドが全然飽きない。最高だ!」
この後俺たちは食べ終えるまで終始黙って食べた。
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