2-25 誓約書

探検の書

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「やあ!フィデリオ君、こんにちは。」

「こんにちは!ソルトさん。アメン坊もこんにちは。」

「っ!」

ソルトの右横にいるアメン坊は言葉を発する代わりに丸い体から触手を伸ばし、手を振る要領で挨拶を行った。

「ふっふふ!アメン坊も”こんにちは”だってさ。それよりも、ようこそ!獣魔ギルドへ!僕達は君達を歓迎しているよ。僕の名前はソルト。人間種パーソン族で年齢は38歳だから気軽におじさんって呼んで良いよ。こっちは従魔のアメン坊。よろしくね。」

ソルトは一笑いすると両手を大きく広げて俺達の獣魔ギルドへの登録を歓迎した。それに伴いソルやジル、他の師匠予定の人達や受付職員の人も拍手をして歓迎した。

「おいおい…。ったく、お前の後だと挨拶しずれぇなぁ。俺の名はバズラード。従魔は獣魔小屋にコンバットホースのガルってのが居る。人間種バリアン族でソルトとは腐れ縁の仲だ。歳はもう35だから呼びたいように好きにしてくれ。よろしく頼む。」

バズラードは右頬に3本傷が刻まれた、青い角刈りで顎髭持ちの中年男性である。身長は誰よりも高く190cmに近いくらいあり、赤い革と銀色の金属の複合鎧を身に纏い、背中には背丈と同じくらいの黒色の十文字槍を装備していた。

「ちょっと〜…。もしかして、私も年齢を申告する流れなの…。私はサラディア。人間種パーソン族の20代よ。従魔はアーマータイガーのルンが小屋に居るわ。貴方達が制度を受けてくれて嬉しいわ。よろしくね。」

サラディアは白髪のショートヘアーでボーイッシュな見た目である。身長はジルよりも少し小さい位の小柄で全身を赤い革の鎧で身を包み、その上から袖無しの外套を着込んでいた。左右の腰にはショートソードよりも少し短い双剣を装備して、右太腿には投擲様の短剣を数本のホルダーを着けていた。

「ついでたし!俺も、もう一回自己紹介しておくぜ!俺はゾル!人間種パーソン族でサラと同じく数少ない20代だ!従魔はブレードホークのガイラだ!改めてよろしくな!」

「はぁ〜…。だから、もう少し、声を下げろ。改めて私はジル。人間種パーソン族でゾルの姉だ。歳はゾルとサラと同じく20代だ。従魔はクイーンビープラントのクーン。改めてそこの馬鹿共々よろしく頼む。」

ジルはソルの大声の挨拶に、ため息混じりに視線を外し顔を顰める。

「よろしくお願いします。俺はフィデリオって言います。妖精種クォーターノムルスの8歳です。気軽にリオって呼んでください。」

「オイラはラートにゃ!獣人種猫人族の10歳にゃ!そんでナートの兄にゃ。よろしくにゃ!」

「ラート!皆さんに失礼だにゃ!僕はナートですにゃ。ラートと同じ10歳で双子の弟ですにゃ。ラート共々よろしくお願いしますにゃ。」

「アタイの名はシルル。人間種アマゾン族の9歳よ。こっちは妹のメルルよ。よろしくね!お師匠様方。」

「アタイは〜メルルって言いま〜す。リオと同じ8歳で〜シルル姉共々よろしくお願いしま〜す。」

「さてと、全員の自己紹介が済んだ事だし、誰が誰を担当するかどう決めようか?」

ソルトは全員の簡単な自己紹介が終わる事を確認すると全員に視線を向けながら師弟の決め方を相談した。

「子供達に決めさせる感じで良いだろ。」

バズラードはソルトの相談に間髪入れずに意見を言う。

「私らもそれで良いわよ。」

サラディアは一度だけジルとゾルに視線を向けてバズラードに賛成する。

「それじゃあ、リオ君達で相談して良いよ。何なら僕達はその間どっかで時間潰しておくからさ。」

ソルトは友人達の意見を聞くと、人差し指を入口に向けながら俺達に話した。

「いや、多分、大丈夫だと思いますが、その時はよろしくお願いします。それで、みんなは誰が良いとか決まっているの?」

「僕はジルさんに師匠になってほしいですにゃ。何か似たような感じがして気が合いそうですにゃ。」

「オイラはゾルさんが良いにゃ!ナートと同じく気が合いそうにゃ!」

「アタイは〜バズラードさんと〜気が合いそうな〜気がする〜。」

「おいおい、相談も何も無いじゃん。アタイはサラディアさんに師事したい。」

「俺は元から声掛けてもらったソルトさんに教えて貰う予定だよ。全員上手くバラけたし、これで決定で良くね?」

「「「「賛成ー(にゃ)」」」」

「と言う事で全員決まったのですが、皆さんにお願いしても大丈夫ですか?」

俺は全員が喧嘩する事なくバラけた事に安堵を覚えながら、ソルト達に視線を向けてソルト達に確認を取った。

「いや〜。みんなが無事に揉めなくて良かったよ。それじゃあ、僕はリオ君に教えるって事でよろしくね。」

ソルトは少し恥ずかしそうに照れた表情で右手で頬を”ポリッポリッ”っとかきながら握手を求める。

「はい!ソルトさん、よろしくお願いします。」

俺は手汗や汚れが着いてはいけないとズボンで拭いて、ソルトの握手に応じた。

「ナート君も兄弟で苦労しているんだな。苦労人同士、よろしく頼む。」

ジルはしゃがみ込みナートの肩を軽く叩いてから、ナートに握手を求める。

「あっはっは…。言われてみれば、そうですにゃ。ジルさん、此方こそよろしくお願いしますにゃ。」

ナートはジルの行動に思い当たる節があったのか苦笑いしてから握手した。

「なぁなぁ、ラート、あんな風に言われてんぞ。心当たりあるか?」

ゾルはラートに顔を近づけ、ジルとナートの表情について耳元でコソコソ話を行う。

「にゃ〜あ?知らないにゃ。ゾルさんも心当たりあるかにゃ?」

ラートはゾルの質問に首を傾げると、今度はゾルに質問し返す。

「さぁ?まぁ、いいや。ラート、よろしくな!」

ゾルもラートと同様に首を傾げたが、気にする事でも無い為か笑顔になり拳をラートに突き出した。

「うにゃ!ゾルさんもよろしくにゃ!」

ラートもゾルの拳に合わせるように腕を伸ばすと、お互いの拳が”コツンッ”っとぶつかった。

「あそこのお馬鹿さん達は置いておいて、よろしくね、シルル。」

サラディアはゾルとラートを指差しながら笑うとしゃがみ込みシルルに握手を求めた。

「よろしくお願いします!サラディアさん。」

シルルはサラディアの笑顔に釣られて、笑いながら握手した。

「おい、お前は、何で俺を選んだんだ?正直に言って、俺とお前とでは、そこまで”気が合いそう”って感じじゃ無いと思うが…。」

バズラードは目の前の幼女に自分が選ばれたのかイマイチ理解できないのか困惑していた。

「”お前”じゃ無くて〜メルルって呼んでよ〜バズラードさ〜ん。バズラードさんって〜いじり甲斐が〜ありそうで〜面白そうだから〜よろしくね〜。」

メルルはそんなバズラードに対して”クスクス”と笑うと、いつもの伸ばし口調で挨拶した。

「うぐっ…。ま、まぁ、お手柔らかに。な?」

バズラード自身も他者からのいじられ役に身に覚えがあるのか顔を引き攣ると少し動揺しながら冷や汗をかいていた。

「はいはい!お互いの顔合わせも済んだ事だし、誓約書を書いてギルドに提出するよ。」

ソルトはその場で2度手を叩くとあらかじめ書かれている書類を取り出した。そしてペンの尖った先を左親指に突き立てると血文字で”ソルト”と”フィデリオ”の文字を書いた。

「ソルトさん、書類って何ですか?」

「うん?あぁ、ギルドに誰が師匠で誰が弟子か、弟子が起こした問題を誰が責任取るかとかの誓約書を書いておくのさ。契約魔法の一種だから不正は出来ないようになっているんだよ。」

「見ても良いですか?」

「見習い冒険者登録の物と大差ないよ。」

「アレって両親がやってくれたから、見ていないんですよね。」

「そうなの?なら、はい、どうぞ。」

〜獣魔ギルド・誓約書〜

①私、ソルトはフィデリオを弟子に取り、後継者制度を活用する事で一人前の魔物使いに育てる事をここに誓う。

②師は弟子に犯罪行為並びにその強要をさせない事をここに誓う。

③弟子は師を本人の意思で選択し、師はその選択を強要していない事を誓う。

④師は獣魔ギルド依頼中・後継者育成中に起きた弟子の不始末の責任を取り、問題が起きないように監督する事を誓う。

⑤話し合いの末に弟子が師弟解消を求める場合は、応じる事を誓う。

⑥①〜⑤のいずれか1つに反した場合は、ステータスの一時制限、身体拘束の後に獣魔ギルドの処罰を受け入れる事を誓う。

誓約者:ソルト   印

誓約書の材質は紙ではなく、動物の皮の様な肌触りだった。大きさもA4サイズに小麦色と言うか薄い茶色だった。”ソルト”と”フィデリオ”の文字と他の文字の筆跡が違う事から予め他者が作った物だった。

「ヘェ〜こうなっているんですか…。でもソルトさんだけ制限と罰則が重過ぎませんか?」

「まぁ、それもこれも、この制度を安全に使う為のものだからね。君達の様な立場的に不利になる人達を守る為だから仕方ないよ。」

「そうなんですか、ありがとうございます。それと質問良いですか?」

「良いよ、何だい?」

「この⑥の”身体拘束”って具体的にどんな状態になるんですか?」

「僕も実際には見た事は無いけど、ギルドが言うには奴隷と同じ様に顔に魔印(まいん)が浮かんで、激しい頭痛の後に気絶するらしいよ。」

ソルトは魔印の説明の時に右人差し指で耳と耳の間を鼻が通る様になぞって説明した。

「うわぁ…。」

「ステータスも制限されるから、気絶耐性とか持っていても関係無いし、顔に突然、魔印が浮かんで気絶したら周囲の人達だって訝しむからね。」

「確かに…。」

「それに何とか気絶しなかったとしても、魔印が浮かんだ状態じゃ1人では門番に止められるし、抗えば抗う程に痛みが増すからどっちみち無理だって聞くよ。」

「なるほど…。それは無理ですね。」

「でしょ?さてと、これで血印をして、長老!提出するよ。」

ソルトはペンで突き刺し血が流れている親指を”印”の所で押し当てる。

誓約書の印に押された血は、まるで赤いバラが咲いた様に形を変えて変化する。直ぐに変化し終えると誓約書の外側の周囲に黒いイバラ模様が浮き出ると一瞬だけ薄く青緑色に光を放った。

「はいはい。皆さんの誓約書を受け取りました。それと何度も言いますが、私はロウです。君達もよろしくね。」

「あっはい、よろしくお願いします。」

「彼は僕の父がギルドに入る前から受付をしている最古の人で、ここのギルド長よりも勤続年数が多いんだ。それでみんなから敬意を込めて”長老”って親しまれているんだよ。」

「なるほど!分かりました。」

「それじゃ、もう行こうか。」

「っ?分かりました。何処に行くんですか?」

「獣魔小屋に行ってアメン坊以外の従魔を外に連れ出して、触れ合い会をしようか。」

「分かりました!楽しみです。」

「それじゃあ、バズ、僕達は先に外に行って待っているよ。」

「あぁ。俺らも順次行くから待っていてくれ。」

「ソルトさん、一緒じゃ無くて良いんですか?」

「うん。小屋は広いけど、入り口は1つだから全員で行くと結果的に混み合って待つ事になるからバラけた方が良いんだよ。」

俺とソルトは獣魔ギルドから出て、獣魔小屋のソルトの他の従魔を迎えに向かった。

 

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