2-20 戦闘訓練

探検の書

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俺が新たな装備であるショルダーバックを購入してから2日後の昼食前の鐘がなる頃にアラン祖父と幼馴染達と王都第二門を出て直ぐの所に来ていた。何故なら今日から祖父による戦闘訓練が始まるからだ。

「うわぁっ!リオの鞄ってチョーイケてるね!」

シルルは俺の赤茶色と黒のストライプの入ったショルダーバックを見て目を輝かせるように笑みを浮かべだ。

「リオ君っ!僕もシルルちゃんと同じく思うにゃ!その鞄とてもカッコ良いにゃっ!」

ナートは俺のバックを手に持ちシルルの意見に同意して顔を赤らめて興奮している。

「へっへーんっ!どう!?似合う!?良いでしょ?」

俺はお気に入りの見た目と機能性のあるショルダーバックを褒められて、まるで自分が褒められたかのように幼馴染達にドヤ顔で自慢した。

「でも〜リオ〜。その鞄って高いやつなんじゃない?シルル姉やアタイのお小遣いじゃ買えないのにどうやって手に入れたのよ〜?」

メルルは鼻高々で自慢している俺を見て呆れた表情を浮かべると、羨ましそうな表情で俺に入手経緯を質問した。

「そうにゃ、そうにゃ。メルルちゃんの言う通りにゃ。報酬の良い依頼があるにゃら、オイラ達にも教えるにゃ。リオ君だけ良い思いしてずるいにゃ。」

ラートは両腕を胸の前で組み不満げな表情を浮かべながらメルルに同意した。

「アッハッハ、良いよ!これはねこの前依頼を受けた側溝掃除の依頼の報酬で買ったんだ。何か色々と訳有りの依頼っぽくてさ、俺が受けた時は通常の4倍の報酬だったんだ。内容も臭いと虫と汚れさえ気にしなければ楽だったからみんなも依頼が有れば受けてみたら?」

俺は正反対な表情と行動をする兄弟と姉妹を見比べて一笑いしてから、ショルダーバックを購入できた訳有り側溝掃除の依頼内容を暴露した。

「4倍っ!?絶対にオイラも受けるにゃっ!リオ君、教えてくれてありがとうにゃっ!やっぱり、持つべきは幼馴染の友達にゃ!」

ラートは訳有りでも高収入である依頼に驚愕し、俺が秘密を共有した事で不満げな表情から一変して笑みを浮かべ俺の肩に右手を回した。

「あはは…。あっそれとは別でみんなに獣魔ギルドについて言ってなかったんだけど…。もしかして、みんなのお父さん達から聞いた?」

俺はラートの態度の変えように苦笑しつつ、折角の全員集合の機会なのでついでにソルトとの約束を交わした勧誘話しの有無を聞いた。

「僕たちは父さん達からリオ君のお父さんを通じて聞いたにゃ。シルルちゃん達はどうかにゃ?」

「アタイらは元々母さんが従魔士だから少し前から聞いていたわ。」

「でも〜母さんは〜形だけギルドに所属していたから〜アタイらもあまり詳しい事は知らなかったんだよね〜。」

「ヘェ〜そうなんだぁ。それでみんなはどうするの?俺は興味があるし父ちゃん達の許可も貰ったらソルトさんの弟子?になるんだ。」

俺は自分が伝える前に幼馴染達が両親から聞いた事を踏まえて獣魔ギルドの後継者制度を受ける事を告げた。俺はソルト自身に確認したわけではないが、制度名に”後継者”と言う言葉がある為に受けるとなると”弟子”と言う立場になると思っていた。

「オイラ達も折角の機会だから、その申し出を受けるにゃ。」

ラートは俺の肩に回していた右手を上げると俺の頭を撫でながら受ける意思を表明した。

「出来ることは多いに越した事はにゃいしにぇ。」

ナートはその場で腕を組み、目を瞑りながら何度も頷いた。

「アタイらはどっちでも良かったけど、みんなが受けるって言うし、メルル、アタイらも受けてみようぜ。」

「シルル姉〜賛成〜。とりま、後で母さん達に報告しなくちゃ〜。」

「はいはい!お前ら、お話はここまでだ。んじゃ、これから本格的な戦闘訓練を始める。」

祖父は俺達の話がひと段落ついたところでその場で手を2,3度叩き俺達の視線を集めた。

「待ってました!」

俺は少し興奮しながらその場で右拳を作り、右足と同時に前に出しやる気をアピールした。

「アタイらも早く冒険者になるんだ!」

シルルは俺に続くように両拳を作り、右足を地面に”ドンッ”と着けると同時に両手でガッツポーズを行った。

「オイラ達も早く強くなりたいんだにゃっ!」

ラートは右拳を高らかに上げて叫び声を上げた。

「その気合いは良し。それじゃあ、まず始めにラートとナートお前達が年長だから訓練の最初と最後の号令を任せるぞ。良いな?」

祖父は口元をニヤリと笑うとラート兄弟に修業開始と終了の号令役を任命した。

「「はいにゃっ!」」

「それじゃあ、しばらくは兄のラートが開始の号令を担当して弟のナートが終了の号令を担当な。んで、慣れてきたら全員が自主的に行う様に。順番はお前達で相談して決めろ。分かったな!」

「「「はいっ!」」」

「「はいにゃっ!」」

「それじゃあ、ラート。号令を頼む。」

「はいにゃっ!全員、整列するにゃ!アランさんに一礼にゃ!よろしくお願いしますにゃっ!」

俺達はラートの整列の掛け声にバラバラの位置に立っていた状態から横一列に並び挨拶を行なった。並んだ順番は右からシルル、ナート、メルル、俺、ラートの順で並んだ。今後は並び方を年齢順にするのか、今の並び順に固定するのか話し合いを行う必要がある。

「「「よろしくお願いしますっ!」」」

「よろしくお願いしますにゃっ!」

「おう!此方こそよろしくお願いします。」

「それで爺ちゃん、まず何から始めんの?」

「そうだなぁ…。先ずは各自この砂時計が落ち切るまで柔軟や走ったりして身体を温める様に。本格的な修業はそれから始める。行動開始!」

祖父は魔法鞄から割と大きい砂時計を取り出すと俺達にアップを行う様に指示して、その場で一度手を叩いた。

「「はいにゃっ!」」

「「「はいっ!」」」

俺達は準備運動と柔軟体操、軽いジョギングなどを行いアップを念入りに行った。祖父が魔法鞄から取り出した砂時計は、全長30〜40cm程の大きさで、俺がいつも使っている物より30分程度の物よりも2倍大きかった。

「行動終了!それではこれより戦闘訓練を開始する。だがその前に全員に改めて問おう。今日から行う訓練はこの先、とても辛いものになるだろう。それでも訓練を受ける気はあるか?」

祖父は砂が落ち切る寸前で一度手を叩き俺達にアップ終了を告げた。そして祖父は俺達を見渡し表情を引き締め凄むように質問した。

「「「っ!?はいっ!」」」

「「っ!?はいにゃっ!」」

俺達は祖父の凄む圧に身体中に電流が走ったかの様に一度”ブルルッ”と震えが起きた。しかし、心で負けないように大声で叫び自身と幼馴染達を鼓舞する様に返事を行なった。

「…後日、改めて同じ問いを行うが、今日のところは分かった。それでは、始める。まずは手始めに受身の訓練から始める。ではラート、何故最初の訓練が受身であるか分かるか?」

祖父は小さくボソッと呟くと一度頷き、ラートを指差し受身訓練の意味を質問した。

「はいにゃ。受身は相手から攻撃を受けた時に掛かる身体への衝撃を軽くする為に行う事だと思うにゃ。だから受身が出来る様ににゃると戦闘中の大怪我を防ぐ事が出来るからにゃ!」

「その通りだ。付け加えるなら魔物との戦いでは例え身を守っていても一撃で身体を吹き飛ばす衝撃を与える奴らが多い。そんな相手に受身を上手く使えれば、受身直後に来る追撃を直ぐに行動する事で回避する事が出来るようになる。それも頭に入れておくと良いぞ。」

祖父はラートの回答に満足げな表情で頷くと右下差し指を立てて受身後の相手の攻撃まで示唆する事を助言した。

「なるほど…。相手は俺達を吹き飛ばしたら、俺達が立ち上がるまで待ってはくれないって事ね。」

「リオ、そういう事だ。それじゃあ、俺が手本を見せるから真似てみろ。ただし行う時は怪我の防止の為に周囲の石を取り除いてから行うように。」

そして祖父はその場で前世の柔道の体育でやった後ろ受身、横受身、前受身、前転受身を行った。

「今、俺が行った受身は対人戦闘でも使える基本的な受身の動き方だ。戦闘中はこの動きを基に動き方を応用して受身を取っていくんだ。それじゃあ、行動開始!」

「「「はいっ!」」」

「「はいにゃっ!」」

俺達は祖父の拍手と掛け声に大声で返事を行い行動した。俺は長いブランクはあったものの前世の義務教育で何度も行っていた為に割と直ぐに基本となる4つの受身を卒なくこなせた。その為に前転受身に苦戦しているメルルにコツの説明をしつつ自らの受身の熟練度上げに奮闘した。

「行動終了!次は防御の仕方を行う。そんじゃ〜シルル!防御を行う時はの注意する事は何か分かるか?」

祖父は手を大きく叩き再度俺たちの注目を集めた。そして右人差し指でシルルを指差すと防御についてシルルの意見を聞いた。

「えっ!?えぇ〜っと…。頭や顔、胸とか身体の中でも大事な部分を守る事…かなぁ?あっいや、だと思います。」

シルルは突然の事で慌てふためき、自信なさげに答えると直ぐに話し言葉から敬語に慌てて訂正した。

「シルル、挨拶と返事の時以外の言葉は崩しても良いから気にすんな。それとお前の言った事は、とても重要な事だ。自信を持て。お前らもよく覚えておけ。頭や顔、胸には生きていく上で重要な臓器が多くあるから腕や足を攻撃された事と違い一撃で致命傷になる事も多々ある。しかし、それは俺たちだけでは無く魔物にも言える事だ。それを常に頭に入れて訓練を行うようにな。」

祖父は怒っていないか心配そうにチラチラ見ているシルルに、笑顔を見せながら励まし事細かく説明を行う。

「アランさん、しつも〜ん。防御の時に〜他に〜何を気をつければ〜良いの〜?」

「1つ目は防御した時の姿勢に注意する事だ。そうだなぁ、リオ、ちょっと前に出て、お前の考える防御の姿勢を行ってみろ。」

祖父はメルルの質問に対して説明する為に俺の方を向き右手でそばに来るように呼び掛けた。

「うん?分かった、爺ちゃん。」

俺は自身の低身長を鑑みて、格闘戦闘を想定して顎を引き両拳を眉の下までもっていき両腕で顔面を守るボクシングの構えの一つである”ピーカブースタイル”の姿勢を取った。

「例えばこのリオの姿勢は顔面と胸を重点的に守っている良い防御姿勢だ。しかし、同時にこの姿勢では顔面を守っている腕が、目の死角を作ってしまいかえって相手に隙を与えてしまうから、そこを注意して攻撃や防御を行わなければならないんだ。ありがとうな、リオ、戻ってくれ。」

「なるほど…。こっちもありがとう、爺ちゃん。」

「アランさん!という事は相手にも死角はあるって事ですかにゃっ!?」

ナートは俺が戻るのと同時に右手を挙手して祖父に死角について質問した。

「ナート、その通りだ。まぁ、稀に死角が無い奴…そうだなぁ…”オムニヴォーセル”って言う身体の形を変える魔物が居るんだ。ソイツは目や鼻とかがない分、自身の感知系技能の範囲で相手を感じ取っているのさ。そう言う相手には感知の外から攻撃する事はまさに死角であり、他にも周囲の地形や自然を使い、相手の隙をこちらから作って対処すれば問題ないのさ。」

「アランさん!教えて下さり、ありがとうございますにゃ!」

「おう、学ぶ意欲があるのは良い事だ。んで、2つ目は”防御は必ず攻撃を受ける必要は無い”って事だ。」

「アランさん、どう言う事〜?」

「単純な話だ。相手の攻撃を避けたり、受け流したりする事も”身を守る防御方法”って点に置いて防御に当たるって事だ。つまり攻撃を受け切れないって思ったら素直に避けたり、流せって事だ。力と力が正面からぶつかったら強い方が勝つに決まっている。初めから分かりきっているなら回避するのも良いし、受けてから無理そうなら向かってくる力の方向に身体を流す事も必要だ。お前達、分かったか?」

「にゃぁぁ…少し難しいにゃ…。」

ラートは俯き両手で頭を抱えながら左右に頭を振り出した。

「まぁ、その内に何となく分かって来るさ。それじゃ最後に攻撃について説明したら、昼飯食べて即実践だ。それで、攻撃についてなんだが…。お前らはどうすれば相手に強い攻撃を与えられるか分かるか?それじゃあ…ラート、どう思う?」

祖父は微笑みながら最後の説明の攻撃についてラートに意見を聞いた。

「んにゃっ?う〜んと〜思いっきりやるにゃっ!」

ラートは祖父の質問に顔を上げ、考えをまとめると右拳を笑顔で前に突き出した。

「ワッハッハ!ラート、大正解だ。確かに”全力で攻撃する”って事以上に正解は無いな。それじゃあ、全力の攻撃を行う為にはどんな事に注意する必要があるかだが…リオ、それが何か分かるか?」

祖父はラートの態度の変化に何度も手を叩きながら笑い、今度は俺に意見を聞いた。

「…。腕や足、背中、腰とかの身体を動きを正しく行う事…かなぁ?」

俺は腕を組み祖父から視線を外し前世のスポーツを思い浮かべながら答えた。

「ふむ、それで具体的にどうか説明できるか?」

祖父は俺の抽象的な意見を否定せず、より深い説明を求めた。

「う〜ん…。例えばだけど俺は、相手を殴る時に腕をただ伸ばすだけじゃ無くて、足の踏み込みを入れて腕を引き腰に捻りを加えて小振りで殴った方が力が入っている様な気がするんだ。それに、この動きを流れる水のように止めないで行うと楽だし動きやすいんだよね。説明になっているかな?」

俺はその場で一度ボクシングの左ジャブを行ってから、右拳を顔の横につけ左足を前に出して構えた。そして、右拳を弓矢の弦を引くように腰を捻り上げ、限界に到達した時に右足で地面を蹴り、その勢いを止める事なくコンパクトに右腕を前に振り切り説明した。

「いや、しっかり説明になっているし良い答えだ。それと、攻撃の”瞬間”と”直後”は身体の構造上の問題で姿勢が崩れてしまうから反撃の隙が生まれるんだ。だから、攻めるにしろ守にしろ戦闘は常に頭を使い考えて行動する必要がある。お前達、分かったな?」

祖父は俺と同じようにその場で拳を振り切りながら攻撃で作られる隙について説明すると右人差し指で自身のこめかみを”トントントン”と叩いた。

「「「はいっ!」」」

「「はいにゃっ!」」

「おう、それじゃあ一旦訓練を終わり昼飯にするぞ。ナート、号令を頼む。」

「はいにゃ!全員、整列にゃ!アランさんに一礼にゃ!ありがとうございましたにゃっ!」

ナートはその場で右手を上げて返事をすると俺達に号令を掛けて開始と同じ並び順で挨拶した。

「「「ありがとうございましたっ!」」」

「ありがとうございましたにゃっ!」

「おう、ありがとうござました。」

俺達は互いに挨拶を行い昼休憩を行なった。

 

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