「すまない!待たせたな!2人とも。」
ジュリーと呼ばれた女性騎士が少し慌てたご様子で金属製の扉を開く。
「僕は、ジェードリヒさんとお話ししたましたから大丈夫でしたよ。」
俺は気にしていないことを伝える為にジュリー女性騎士に笑いかける。
「なぁジュリー、随分と遅かったじゃねぇか。何かあったのか?」
ジェードリヒは自分の相棒が何か問題にあったのか心配した表情でジュリー女性騎士に質問する。
「ふむ?あぁ、いや、エリー達とフライハイト卿が少し早く来いてな。宿舎の近くに置いていた荷車達を片そうとしていたから事情を説明していたんだ。」
ジュリー女性騎士はジェードリヒが自身に向ける表情に一瞬首を傾げるが直ぐに少し嬉しそうに笑いながら事情を説明する。
「デニーロ達が?まぁアイツら昨日は休暇だったから知らなくても仕方ねぇんじゃねか?」
ジェードリヒはジュリー女性騎士に何も無かったことにホッと安心して少し恥ずかしそうに右手で頭をかき彼女から視線を外し話を続ける。
「そうだな。それで事情の説明をしている所にフライハイト卿がいらしてな。次いでに先程の布と紐について追加支給を頼んでいたのさ。」
ジュリー女性騎士はジェードリヒの行動に微笑ましいものを見た様に組んでいた腕の解き、右手で口元を隠しながら笑った。
「で?結果はどうだったよ。」
ジェードリヒは気持ちが落ち着いたのか真面目な表情になり彼女に顔を向ける。
「あぁ。宿舎で古くなって使われていないシーツがあるだろう?処分するのも勿体無いからそれを使えっとの事だ。紐も同様の対応を行うとの事だった。」
「あぁ、アレな!よかったな、フィデリオ。布と紐の許可が降りたぞ。」
ジェードリヒは彼女の報告に視線を上に向けて左手を右拳で”ポンッ”と叩き、なる程のポーズをした。
「ジュリー様、ジェードリヒさん、ありがとうございます!」
俺は追加支給の許可が滞りなく進んだ事に2人に最敬礼して改めて感謝を伝えた。
「あぁ、喜んでもらえて何よりだ。しかしフィデリオ君、何故ジェーディはさん付けで私は様付けなのだ?私も貴族では無い故にこそばゆいのだが…。」
ジュリー女性騎士は右手を顔の近くまで上げて挨拶するとそのまま右頬を人差し指でかいて照れていた。
「あっ、そうだったんですか?てっきり貴族の方なのかと思っていたので…。」
俺は分からない時は取り敢えず貴族だと思って行動しようと対応していたのでジュリー女性騎士が貴族でない事に少し驚いた。
「おい、ジェーディ。少年と話していたのだろう?それなら何故私の事も言っておかないのだ?」
ジュリー女性騎士は隣に立つジェードリヒの方を向き少し怒った表情で問い詰める。
「いや、自己紹介は当人同士で行うものだろ?なら俺が説明しておくのも違うだろ。」
ジェードリヒは少し身体を後ろに引きつつ両手を胸の前に上げてジュリー女性騎士に落ち着く様に促した。
「あぁ、いや、そうだな。すまない、ジェーディに当たってしまった。」
「俺らも知らずに夜間警備で疲れが溜まってんのさ。ジュリー仕方ねぇよ、気にすんなって。な?」
ジェードリヒは少し落ち込むジュリー女性騎士の左肩を右手でを”ポンッポンッ”と叩き声を掛ける。
「そう言ってくれると助かる。すまない、少年。恥ずかしいところを見せてしまったな。私の名はジュリアンヌ。親しい人から”ジュリー”と呼ばれている。よろしく頼むな、フィデリオ君。」
「分かりました、ジュリアンヌさん。改めまして、僕の名はフィデリオです。友達や家族からはリオって呼ばれたます。ジュリアンヌさんはジェードリヒさんと仲がとてもよろしいんですね。」
「あぁ、自慢の相棒で旦那だ。」
ジュリアンヌは左隣にいるジュードリヒを自慢する様に胸を張る。
「ええっ!?ご夫婦だったのですか!?」
俺は数年前にあったような既視感を感じながらその場で驚く。
「うむ?なんだ。少年と話をして仲が良さげだったのに話していなかったのか?ジェーディ。」
ジュリアンヌは首を傾げた後にジュードリヒの方を向いて質問した。
「ガッハッハ!おうよ!どうせ言うならジュリーがいた方が良いって思って言わなかったんだよ。でもフィデリオ、良い反応だな。嬉しいぜ。」
「と言う事はジュリアンヌさんも元冒険者…だったりします?」
俺は先程のジュードリヒが元冒険者だった事もありジュリアンヌも元冒険者だと思い質問した。
「いや、私は騎士一筋だ。彼とは騎士見習いの時からの付き合いでな。色々あって去年、夫婦になったのだ。」
「俺らも夫婦になってから知った事だがな。俺らみたいに騎士見習い時代の組みがそのまま夫婦になる奴らって意外といるみたいでな。元々は、見習い時代から男女混合で組ませる事でお互いがどういう問題なく現場で働ける様にした政策らしいんだ。」
「そして、その結果論として騎士の晩婚化や未婚率っと言ってもまだ分からんか…。人よりも遅く夫婦になる人や婚姻したいのに相手がいない人などが少しずつ減ったのだ。」
ジュリアンヌは俺を見て晩婚化と未婚率と言う言葉を噛み砕き説明した。
「えーっと…。見習い時代の組みって一生変更はできないのですか?」
俺は説明で気になった疑問について言葉を噛み砕いて説明してくれるジュリアンヌに質問した。
「教官達との面談次第だな。お互いに教官達が面談を行い性格や素行の調査などで変更される事もある。基本的には変更申請の時期は2年に一度ある。その為に騎士を目指すのなら安心すると良い。」
「今更ですが…これって俺が聞いても良いのですか?」
俺は今更ながら詳しく聞いた説明に聞いて良い事なのか心配になり2人に聞いた。
「どこの国でも似た様な事をやっているし、騎士学校の入試案内にも政策や変更申請について書いて張り出していたからな。ほら、さっきも冒険者上がりが割といるって言ったろ?俺は、偶然だったけどその理由が配偶者探しにもあるのさ。国も国で優秀な人材が来て根付き国民になれば万々歳でお互いに利点なのさ。」
「なるほど…。勉強になります。」
「おう。それじゃあ、そろそろお話は終わりにするか。フィデリオも朝早くから仕事しに来て、こうして道具も揃ったんだ。仕事、頑張れよ。」
ジュードリヒは話を区切り右手を上げて挨拶を行う。
「はい!色々と身の為になるお話しありがとうございました!」
俺はジュードリヒの挨拶に合わせて最敬礼を行い感謝を伝える。
「うむ、フィデリオ君、また会おう。」
「はい!ジュリアンヌさん、ジェードリヒさんもお身体に気をつけてくださいね。また会いましょう。それでは、失礼します!」
俺は再度ジュリアンヌとジェードリヒに頭を下げて大声で挨拶をした。俺は手押し車の様な形の荷車にスコップ、紐も、大きな布を入れて城門よりも少し離れた位置にある壁沿いの側溝から掃除を開始した。
側溝には石材で出来た長方形の蓋があり、人が溝に落ちたり馬車の車輪が溝に落ちたりしない様に工夫されている。その上と下の中央には半円状の窪みがあり蓋と蓋をくっつけるとつなぎ目の丁度中央が円状になりそこから雨水や泥などが溝に落ちたりしている。石の蓋の大きさは正確には分からないが、およそ縦50cm横30cmと割と大きいのにたくさん蓋されている。
(この石蓋の厚さは…うわぁ…。10cm…は無いけどそれなりに厚みがある。誰もやりたがらないわけだよ。石蓋をどかして泥やゴミを取り除く→綺麗になったら再度石蓋を戻して次をやるの単純労働だけど、これが結構面倒い。それに臭えからか虫も湧き出るし、報酬金額が異様に高いわけだ。)
俺は試しに石蓋を右手で持ち上げると中々の重量を感じた。普段から身体を鍛えステータス的にも筋力が上がっている為か前世で1kg鉄アレイを持ち上げる位に感じる位の重さだった。そして溝に溜まった泥やゴミを取り除く為にスコップで書き出すとそれまであまり感じなかった異臭が漂い所々に虫がウネウネとしていた。
(エリーさんが俺にこの依頼を勧めた理由が何でか分かった気がする…。あの人、絶対にこの塩漬け依頼を片付けたかったんだなぁ。普通の見習いなら多分やらねぇし、身体を鍛えたなかったら石蓋を持ち上げるのに一苦労だ。そんで、Iランク冒険者が金稼ぎの為にやるかって言えば他にもあるからやらねぇだろうし。受付嬢も大変なんだなぁ。でも、誰もやりたがら無いって事は自己アピールのチャンスみたいなもんだし、今後は積極的に受けた方が早くIランク冒険者に成れる様な気がしてきた。)
俺は心の中で何故エリー受付嬢が側溝掃除を勧めたから考察した。そして、スコップで硬い泥と木の串や生ゴミなどを取り除き荷車に乗せながら黙々と仕事をこなした。俺は途中でスコップで掻き出す度に、出てくる異臭や虫に顔を顰めながらも行っていると昼前の鐘が鳴り少し経ってから、作業を一区切りして一度共用汚物所に向かうことにした。尚作業開始からおよそ60分前後で50m前後の掃除ができた。
「ふぅーっ。身体が少しポカポカしてきて温かくなったなぁ。取り敢えず共用汚物所に行って一旦これを捨ててくるか。あぁでも布は両端に穴空けて貰うの忘れていたから、多分下からグルっと全体を縛る方向で良いだろ。」
俺は左右に腰を回転させる様にストレッチを行うと腰のあたりから”ゴキッゴキッ”と良い音がしたと共に少しだけ身体が軽く感じた。俺は臭いと見た目の悪い荷車に大きな布を被せてから紐を結んで風で飛ばない様にして大通りの”凱旋通り”に向かった。
(あまり馬車やを見かけた事が無いから分かんないけど、もしかして馬車や荷台など車輪が付いている物は右側通行がルールっぽいな。取り敢えず馬車の邪魔にならねぇ様に車道の端を小走りで行くか。車間距離詰めるのと車の流れを止めて良い事ないし。)
俺は車道の右側を歩いて手押し車を押して移動した。俺が10日間で掃除をすることになった側溝は本来の役目以外に徒歩と馬車が衝突しない様に区切りの目印に使われていた。車道は大体馬車3〜4台分の広さがありこの時間はあまり見かけない。俺は片道20分かからない位で共用汚物所に到着する直前に背後から男性の声を掛けられた。
「おい、小僧!止まれ!」
「ん?あ、はい。どうかしましたか?騎士様方。」
俺は背後を振り返るとフェイスガードを上にあげた2人の騎士が立っていた。1人は大柄でガタイが良い白髪の顔の濃い男性騎士で口調から想像出来ないくらいにニッコリした笑顔だった。もう1人は小柄で緑髪の女性騎士で右手で頭を押さえて上を見上げていた。
「小僧、その荷車の中身が怪しい。検分するぞ。良いな!」
「あちゃ〜っ。コイツはまた…。ハァ〜。」
男性騎士は隣で”ガクッ”っとなってため息をこぼす女性騎士を見ていないのか無視してこちらに近づいて来る。
「はい、確認をどうぞ。」
俺は悪い人でも無さそうなので地面に荷車を置き右半身を後ろに下り確認を了承する。
「うむ、潔し!うぐっ!臭い!それによく見たらこのこの布、私たちが使っている物ではないか!小僧!どう言うことか説明しろ!」
男性騎士は結んでいた蝶結びを解き中身を確認する。女性騎士は言葉に出さなくても何処か申し訳なさそうな表情で俺の頭を撫でる。しかし、荷車から解き放たれる泥の異臭に男性騎士は顔を顰め、布の端に小さくほつれながら書いてある”イシュ…騎士…”の文字を見せ説明を求める。女性騎士は驚き撫でる手を止めて俺に疑いなら視線を向け警戒する。
「はい。私は見習い冒険者のフィデリオです。今日から依頼で側溝掃除をしている最中です。この布は移動の時に臭いや泥が漏れて他の人に迷惑になると思い汚れて良い布を支給して欲しいと聞いたところフライハイト様?の許可を得て支給してもらいました!これがギルドカードです。確認をお願いします!」
俺は男性騎士の言う文字に気が付かず二度見して内心驚く。しかし、窃盗をした訳ではないので2人の騎士に身分証明を行い、依頼と経緯を説明する。
「うむ、其方がフィデリオだな。確認した!疑って悪かったな。行って良し!」
2人の騎士は俺からギルドカードを受け取り確認すると納得した表情で警戒を解いた。
「はい!騎士様方も街の巡回警備をありがとうございます!」
「うむ!其方も無理するなよ!それでは!」
「それじゃあ、またね。お仕事、頑張って坊や。」
「はい!騎士様も御勤めありがとうございました!」
俺はその場で挨拶し2人の騎士にその場で頭を下げる。
コメント