俺は次の日の朝を迎えた。俺は日課の走り込みを行う為に早めに起きた。それは怪我をしないように前世で覚えている限りの準備体操とストレッチを行なっていた。
(1、2、3、4っ!5、6、7、8っ!9〜っ、10!)
俺は日課の準備までにおよそ20〜30分ほどの時間をかけながら行なった。本来なら身体に柔軟性を身に付けるにはお風呂上がりが最適らしいが、残念ながらこちらの世界のほとんどは浴槽に入る習慣がない。
浴槽への入浴の習慣があるとすれば大商人や王侯貴族などある程度の地位や身だしなみを整える必要がある人達だ。何故こんなにも浴槽に浸かる習慣が無いのかと言うと入浴のための設備や準備までの手間、そして何より維持・使用する為の費用がとんでもなくかかるからだ。
俺や幼馴染達の両親は高レベル冒険者の為に一般家庭よりも裕福な暮らしをしている。しかし、冒険者はダンジョン探索や護衛依頼など家を空ける日が多く、場合によっては頻繁に引っ越しを行うとこもある。
賃貸契約するにしろ持ち家購入するにしろ浴槽付きの物件は先ず売っていない。自分で追加で取り付けるか、家を建てる段階からやる必要になる。
それでも普通の家でもシャワー室兼整容室は付いているので大抵の人はそれを使っている。使い方は大衆井戸から水を持ってきて貯水槽から使う物と水と火の魔道具を使い使う物の2通りだ。
俺の家は後者で俺自身も前世からシャワー浴派なので特に困ったことが無かった。では極貧の方は如何なのかと言うと王都イシュリナような大きな街だと風呂屋がある。制限時間制で1人30分で50Rを支払えばシャワーができる。またこの国では、風呂屋の湯沸を魔道具ではなくて人力で行っているため極貧者の社会復帰の為に行っている面もある。
(さてとっ、走っか。今日は予定が詰まっているし3往復にすっかなぁ。)
俺は自宅から祖母であるミンクの家までを5往復している。距離に換算して大体1往復2〜3kmなので10〜15kmを走っている。正確な時間は知らないが調理用の砂時計を使って大体30分前後が自己ベストである。走り終えた俺はシャワーを浴びて身支度を整えて、朝食を食べながらギルドに向かった。
俺が冒険者ギルドに着いたのは起床時の鐘が鳴ってから少ししてからだった。まだ、朝も早いのにギルドの中には多くの人が詰め寄っていた。依頼を受ける冒険者や依頼を頼む商人や街人、食事をしている人、もう既に依頼から帰ってきている人などさまざまだ。
俺は昨日とは違うその人の数に圧倒されながらも依頼達成の報告をする為にアスランさんを探した。しかし、見たところアスランさんはとても忙しそうに業務に従事していた為に比較的に空いている赤髪碧眼ショートヘアーの恰幅の良いお姉さんの受付嬢のところへ向かった。
「次の方、どうぞ…って、あれ?なんで前に来ないの?次はあなた達ですよ。」
「違うっすよー。俺たちの前にチビ助がいるっすよー。」
俺は自身の身長ではギルドの受付に頭が届かない為によじ登ろうとしていると背後から女性のような高い声が聞こえた。
「あらっ?そうなの?」
「うんっとこしょっと。おはようございます。すいません受付台が予想以上に大きかったみたいですね。後ろの皆さん、教えて下さりありがとうございます。」
受付の窓口は俺の身長からしたら中々高かった。窓口の高さは1m10cmはあるのかジャンプしてようやく登る事ができた。俺は転生してから3年で20cm成長したが、種族が影響しているのかまだまだ同世代よりも小さい方だ。
「おう、チビ助、気にすんなって。ほら、とっとと用事済ませろよ。」
「オスッ。それで、受付のお姉さん。依頼達成したので報告しにきました。これが依頼人から貰った割符です。確認してください。」
「まぁっ、気付けずごめんなさいね。では割符を受け取りますね。………。はい、確認しました。依頼達成おめでとうございます。今回は依頼主様からの評価が高く特別報酬150ロブが出ています。此方が報酬になります。」
「うん?数字と文字の書いてあるカード?すいません、お姉さん初依頼だったのでこのカードって何なのですか?」
俺はギルドの受付から15cm×5cm位の金属で出来た板に”I・ナ・105″と刻まれたカードを報酬として貰った。
「そうだったのですね。それと私はエリーと申します。よろしくお願いねフィデリオ君。このカードは換金所でお金と交換が出来るのよ。あくまでもここは受付で有るからお金や貴金属は置いていないのよ。」
エリー受付嬢は右手で右の方を指差すとそこは人の出入りが激しく活気のある場所が見えた。おそらくあそこが換金所なんだ。
「成る程、そうでしたか。ちなみに、何で受付で報酬を渡さないのですか?冒険者としては二度手間で面倒を感じるのですけど。」
「それはね、万が一盗みや横領、強盗などが起きたとしても被害を最小限に出来るでしょう?それと受付は依頼の管理が仕事だからそこまで手が回らないのよ。つまり、安全性と作業の効率化の為ね。」
「そうでしたか。エリーさん、お時間とご返答ありがとうございます。」
俺は窓口に身を投げ出しながら足を空中にブラブラさせてエリー受付嬢の説明に感謝した。
「ええっ。フィデリオ君も頑張って下さいね。換金所はあそこに有る商業ギルドの近くにあるから行ってみてね。では、次の方、どうぞ。」
「はい。分かりました。では、お待たせしました。皆さんありがとうございました。また、何か縁があったらよろしくお願いします。」
「ああ。チビ助も頑張れよー。」
俺はエリーさんの激励に答えつつ後ろに振り返り、エリーさんに俺の存在を教えてくれたオレっ娘男口調のアマゾンだろ思われるパーティーリーダーに挨拶して換金所に向かった。
(相手も美人で軽口であったけど、俺この世界の美人特有の見下された視線みたいなの感じ無かった。さっきの人は多分優しい人なんだろうなぁ)
俺は換金所に着くと窓口がギルド受付の倍ほどあった。冒険者ギルド受付の窓口数は10箇所。対して換金所の窓口数は18箇所もあった。換金所の多くは商業ギルドと提携しているケースが多く、対応している人たちは商人見習いとして商人になるべく経験を積んでいた。
(頭良いなぁ。実に効率的だよ。詰まる所換金所は商人にとって店扱いなんだろうなぁ。職業の商人を手に入れる為の条件を達成するだけでは無く経験値も手に入れられるのにきっと丁度良いんだなあ。)
「すいません!このカードの換金をお願いします。」
俺は沢山ある換金所の窓口に並ぶと直ぐに俺の番が回ってくる。
「畏まりました。少々お待ちください。………。お待たせしました。お受け取りください。」
「はい。ありがとうございます。」
「はい。ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております。」
俺は報酬額の700ロブと特別報酬150ロブの合計850ロブを受け取った。1ロブ=10円くらいのレートなのでおよそ8500円くらいの報酬だった。
俺は少しお金持ちになった気分になりとても浮かれた。俺は昼にしては少し早いがクレイ姉ちゃん家の店”タペストリー”に向かった。
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