「ふぅーっ。終わったー。あ”あ”〜疲れたー。今何時くらいだ?時計がないから時間が分かんねぇわ。まあ、陽が落ちていないし少し前に夕飯前の鐘の音が鳴っていたからまだだろきっと。」
俺は刈り終えた草を一纏めにして背伸びをした。両腕や足腰から”パキッパキッ”と良い音がした。普段とは違う体の使い方をしたから意外と疲れた。その為に俺はベルボ修道士の所に行き依頼達成の報告をしに行った。
(転生してから本当に思うのは時計を発明した人はやっぱり偉大だなぁ。一応この世界にも時間を教えてくれる様な物はあっちゃある。神殿で起床時、昼前、昼、夕食前、夕食、就寝時に鐘を3回ずつ鳴らすのだ。大体の感覚としては起床時=6時、昼前=9時、昼=12時、夕食前=15時、夕食=18時、就寝時=21時である。)
この鐘は神殿の人が鳴らしているのではなくギルドのパーソナルボックス同様に不滅と炉心の神ヘスティルト様の”時鐘(ときがね)”と呼ばれる魔道具である。未だ原理は分かっていないが、時間になれば自動的に鳴る仕組みになっている。
(ぶっちゃけ、前世の時計を作って修道士達に鐘を鳴らさせた方が良いと思うのだが、面倒だったのだろか?神様の意図は良くわかんねぇなぁ。あっ!ベルボ修道士が居た)
俺は移動中に思考していると丁度お祈りしているベルボ修道士を見かけた俺は声をかけた。
「ベルボ修道士!」
「おや?フィデリオ君今日はもう終わりですか?」
ベルボ修道士は背後から聞こえる俺の声に祈りを中断し笑顔で振り向く。
「はい。一応依頼されていた所は刈り終えました。確認お願いしても良いですか?」
「っ!?ほぉほぉ。では、早速確認しますね。」
ベルボ修道士は一瞬驚いた顔をしていたが直ぐに笑顔に戻り何度か頷いた。俺たちは神殿の裏口を出て草刈り現場を確認してもらった。
「確かに依頼した範囲の草刈りが終わっていますね。しかも草はしっかり根元から抜いてあり、抜いた草は一箇所にまとめてありますね。言葉遣いから賢い子だと思っていましたが、フィデリオ君は優秀ですね。おや?ここから向こうの地面は少し水気がありますが何か水でも蒔いたのですか?」
ベルボ修道士は裏口近くにまとめた草と綺麗になった土地を見てベ感心した表情で俺を評価した。すると、突然視線を下げるとしゃがみ込み、左手で湿った土を弄り始める。
「あっ!いいえ、僕は水の最下級魔法が使えるのでそれを使ったのですが…駄目…だっだでしょうか?」
俺は勝手に魔法を使った事に少し後悔を覚え、落ち込む。
「そんなことはありませんよ。成る程、それなら早いのも頷ける。しかし、フィデリオ君敢えてキツイ言い方をしますが今回は良かったものの、もし駄目だった場合君はどう責任を取るのですかな?」
「う”っ!そ、それは…責任…取れませんでした。」
俺は自身の考え不足と詰めが甘さに言葉を詰まらせる。
「その通りです。依頼しておいて事前に注意点を説明せず、ギルド会員に難癖をつけて逆にお金を要求する悪質な依頼者が今後現れるかもしれません。その為に依頼を行う前にある程度の手段を提示するのも良いでしょう。」
ベルボ修道士は俺の目線に合わせて真剣な表情で話す。
「はい…。」
「フィデリオ君、勘違いしてはいけませんが、今回の君の働きは素晴らしい出来栄えでした。しかし、そう言う依頼主も稀にいるって事だけは覚えておいて下さいね。君ならきっと今回の経験を活かせると思いましたが要らぬ助言をしました。不快な思いをさせて申し訳ない。」
ベルボ修道士は俺が落ち込む様子に両目を伏せて俺に頭を下げて謝った。
「い、いえ!頭をあげて下さい。此方こそ助言ありがとうございます。」
俺は俺の為に少しキツイ言い方で助言をしてくれた彼に頭を下げさせた申し訳なさを感じ慌てる。
「君の許にか今一度感謝を。おや?フィデリオ君、左手のその傷はどうしたのですか?」
ベルボ修道士は両手を組んで祈り目を開けると、俺の左手を凝視した。
「えっ?左手…ですか…あっ、手袋しないでやったから草で切ったのかなぁ?手のひらが薄っすら切れていた。」
俺の左手のひらにはどうやらに薄っすら切れていた跡があった。幸い血が出ていなかったが痛みが感じなかった為に俺は気がつかなかった。
「では私から今日頑張った君に依頼金とは別の追加報酬として面白いものを見せてあげますね。左手をお借りしますね。」
ベルボ修道士は左手で俺の左手背を軽く握り傷口を覆うように右手のひらを重ねた。
「”主よ、私に癒しのお力をお貸しください。ヒール”」
ベルボ修道士は魔語っぽい事を呟くと淡い黄緑色の魔力放出みたいなのが俺の傷を癒した。恐らくこれが噂の回法で、そして淡い黄緑色の力が仰力だろう。初の回復経験なのだが、正直少しむず痒く思った。
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