3-4 Iランク迷宮「試練の門」

探検の書

前の話・BACK

目次

次の話・NEXT

 

Iランク迷宮「試練の門」がある建物に入ると、そこは橙色の光の魔道具によって照らされていて、外の建物からは、想像出来ないほどの広さのある空間だった。

建物全体には、魔法鞄や共用汚物所などに使われている空間拡張の魔法が使われている為か、見た目の数十倍は広い部屋に、ポツンと巨大な門がそこには在った。

巨大な門は、全体的に白色の結晶体の様な物質で構成されており、右の扉部分には、緑色で食虫植物を思わせる様なデザインが施されている。

更に左の扉部分には、灰色の狼の群れを彷彿させるデザインが施されている。そして、巨大な門の淵側に髑髏を象ったデザインが、余す事なく描かれており、地面に描かれた多角化された陣の上に浮いて設置されている。

門の下に描かれている陣は、見た感じ門と同じ材質の結晶体に刻印されており、そのデザインは、正三角形を3つ重ねた9角形で、先端の頂点を結ぶ様に陣が描かれている。そして、門の真下で、陣の中心には魔法陣と同様に数字の4の様な不思議なマークが描かれていた。

「(う〜ん……よく見ると不思議なデザインだ。多分、灰色の狼の群れは、グレイウルフの群れを表しているんだと思う。それなら、右の門に描かれているものは、植物……の魔物だと思う……でも、その推測が合っているなら……もう一つが厄介そうだ)」

迷宮内は、そこに生息している魔物達にとって、繁殖しやすい環境になっている。人々の出入り口を守護する為の城塞都市リントラトビューアでは、明るく春の陽気を感じさせる季節感から植物系か獣系の魔物だと予想される。

しかし、俺はこの理論から大量の骸骨=不死者(アンデッド)系の魔物が出て、尚且つこの魔物達に有利な暗い墓地のような場所だと予想した為に気を引き締めた。

「いよいよにゃ。みんな、折角だし最初は、全員で扉を開こうにゃ!」

「いいね〜! やろやろ〜」

「アタイもやるー!」

「俺も一緒に開きたいって思っていたんだ!」

「僕もにゃ」

「「「「「せーの!」」」」」

全員で扉を開くと、本来であれば扉の向こうにある建物の壁が見える所を何も映さない真っ暗な空間が、在った。俺達は2度目と言うことで驚きは無かったが、ドキドキで胸を高鳴らせて、その空間の中に歩みを進めた。

空間内では、突風を感じている時のような風が肌を撫でる感覚があるものの、実際には風が吹いている気配は無く、不思議な感覚のみがあった。そして、数十メートル先には、暗闇の空間で真っ白く輝く扉があり、それを再び押すように開いた。

出てきた先は、さっきまでと同じ建物の場所だった。違いは特にないので、建物から出ると昇格試験でお世話になったリントラトビューアの街並みが見えた。

「さて、君達、ギルド証を提示して頂戴」

若い女性騎士から再度ギルド証の提示を要求される為に、提示して確認してもらう。

「よし。城塞都市リントラトビューアにようこそ。君達の入場を許可する」

「ありがとうにゃ! お姉さんもお仕事頑張ってにゃ!」

「ははは。ありがとう。君達も無理はするんじゃないぞ」

「「「「ありがとうございます(にゃ)」」」」

「さてと、みんな、これからどうしますかにゃ? 直ぐに魔物と戦ってみますかにゃ?」

「ーー!? ナート! それ、オイラの台詞にゃ! 勝手に言うにゃよ!」

「ーー!? ああ〜ごめんにゃ、ラート……つい、いつもの癖で言ってしまったにゃ……」

ラートに怒鳴られたナートは、天を仰ぎ”しまった!”と言う表情をして落ち込んだ。

「オイラが、率先して言わなかった事も悪いがにゃ、お前が先に言ったら成長もクソも無いにゃ。だから、少し面倒だけど、オイラが気付いていなかったら、助言程度にして欲しいにゃ」

「分かったにゃ。今度からそうするにゃ」

「それじゃあ、気を取り直して、これからどうするにゃ?」

「俺は、情報収集をした方が良いと思う」

「リオ君は情報収集かにゃ?」

「うん。俺達は、この周囲にどんな魔物が出るか分かっていないし、迷宮の最深部が、何処にあるかも知らないから無闇矢鱈に外に出るのは、危険だと思う」

全員に共通して言える事だが、冒険者の資格を取り迷宮へ自由に行く事が出来る様になった俺達は、普通に迷宮の知識について調べる事を忘れると言う凡ミスをしていたからだ。

「アタイも〜賛成〜」

「確かに、それを知らないで戦う事は危ないにゃ。他にはあるかにゃ?」

「アタイはー情報収集ついでにこの都市を散策したいかなー? 試験の時は、ゆっくり見れなかったし、ここには何があって、何が無いのか分かっていた方が、今後の活動に影響があると思うなー」

更にシルルは、情報収集のついでに、この城塞都市に何があり、何が足りないのかを事前に調べた方が良いと提案した。

「僕もシルルに賛成にゃ」

「それにゃら……この都市を散策しながら、知っていそうな人達に話しかけて、情報収集する感じで良いにゃ?」

「「「「異議なし(にゃ)」」」」

そうして、散策をした結果、外に出る入り口は南にある正門一つであり、魔物の素材買取を行う店やポーションや素材鞄などの総合道具販売店などで賑わっていた。

反対に都市の北側は、保存食や衣服類などの生活雑貨などで賑わっていた。

都市の西側は、冒険者の宿屋として機能しており、素材買取店に近いほど、値段は安くなっていた。具体的には、安宿は匂いがキツいが1泊1,000ロブ金貨1枚で、高い店が1泊3,000ロブだった。

この事からこの都市の物価は、全てでは無いだろうが、王都よりも2〜3倍高く設定されている。迷宮外の宿泊施設なら、安い場所で300ロブ程度が一般的だ。

更に反対の東側は、カップルが御用達の宿泊施設や男女両方が使える歓楽街の様な夜のお店と言う名の風俗街で、賑わいを見せるそうだ。

幸いなことに今は、昼なのでお店は開いておらず、俺達は向かう前に巡回中の騎士達に捕まり説教を受けていた。

「お前ら、まだ子供だよな? 東側の方は、大人のお店しか無いから、行くなよ? 分かったか?」

ベテラン感漂わせる中年の男性騎士は、少し呆れた様な困った表情を浮かべ注意する。

「あ、はい。俺達は、この都市に来たばっかりなので散策していただけで、行くつもりはありませんでした。お手数をお掛けしました」

「おっ? そうなのか? まあ、今度から気をつけろよ?」

「はい。あ、そう言えば騎士様ってこの迷宮について詳しいですか? 少し、お聞きしたい事があるんですけど……」

「おう、それなりにな。それと、俺は貴族じゃねぇから、そんな畏まって話す必要はねぇよ。もっと楽にしてくれっと助かる」

俺達が意図して風俗街にいる事が誤解であると分かった中年の男性騎士は、俺の敬語に少しむず痒そうに頬をかいた。

「分かったにゃ! それで、騎士様! 迷宮の最深部にある迷宮鍵印って何処にいけば、良いのかにゃ?」

「おう、そうだな……まずは、それを知るには迷宮の仕組みについて知らなきゃならねぇ」

「えーっと……仕組み……ですかにゃ?」

「おう、まずはこの試練の門は、他の迷宮と大きく違う所がある。それは、他と違って3つの異なる系統の魔物が居る事だ」

「あ! それってもしかして、門に描かれた植物系と獣系と不死者系の3系統だよねー?」

門に描かれた3種類の魔物から俺と同じ考察をしたシルルが、確認する様に答えた。

「おっ? 嬢ちゃんは鋭いな! 正解だ。そして、各迷宮は上層・中層・下層の3つに分かれていて、今俺たちが居る上層では、植物系の魔物が生息しているんた。んで、中層には獣系の魔物が居て、下層に不死者系の魔物が居るんだ」

「騎士のおじさま〜しつも〜ん。その、下層に行くにはどうすれば良いの〜?」

「おう、それは、転移陣(メタスタシスサークル)を見つけることだ」

「えーっと……その、転移陣? って何ですか?」

メルルの質問に答えた中年の男性騎士の聞き覚えのない専門用語に困惑した俺は、首を傾げながら質問した。

「上層から中層、中層から下層に行き来する為の古代の魔法陣だ。原理は知らんが、陣の上に立つと一瞬の浮遊感と共に場所を移動する魔法が組み込まれているみたいだ」

「何処にいけば、その、転移陣? を見つけられますかにゃ?」

「この迷宮しか知らんが、西と東で確認されている。如何やら転移陣の周囲は、魔物が最も住みやすい場所みたいでな。転移陣が近づくに連れて魔物の強さも跳ね上がるから、それを目安に探すと良い」

「冒険者ギルドで聞けば、詳しい地図の様な情報を手に入れる事って出来ますか?」

「無理だろうな……俺のさっきした説明は受けられるだろうが、そう言うのは情報屋の領分だ。根気良く探してみろ」

「え〜面倒〜」

中年の男性騎士の説明を聞いたメルルは、眉を中央に寄せて、口をへの字にして溜息をこぼした。

「メルルちゃん、そんな事を言っちゃダメですにゃ。それよりも騎士様、どうして僕達にこんなに親切に教えて下さるのですかにゃ?」

横目でメルルに注意するナートは、騎士達に少し疑惑の視線を向けて警戒した。

「うん? 俺達はこれでも騎士だぞ? 子供が無謀に都市から出て怪我して欲しく無いから教えたんだが、何かおかしいか?」

ナートに警戒された中年の男性騎士は、後ろに控える若い騎士騎士の方を振り向き、顔を見合わせるが心当たりが無い為にお互いに少し困惑を露わにする。

「確かにそう言われると一見おかしさは薄れますにゃ。でも、それなら、僕らに”ギルドで聞いてくれば詳しく教えてくれる”って言う事が正しいですにゃ」

「あっ確かに。それに騎士様達は、巡回警備のお仕事中だしね。わざわざ職務を中断してまで、俺達に懇切丁寧に教える義理は無いよね。それなら、ギルドで説明を受けられる事を教えてくれれば、職務を中断する事も無く俺達の手助けが出来るしね」

「リオ、そうにゃ。教えて貰った身として失礼なんですがにゃ、ここまで僕達に良くしてくれるのは、何故なんですかにゃ?」

「う〜ん……参ったなこりゃ……子供と侮ったつもりでは無かったんだがな。お前らも一端の冒険者だな」

中年の男性騎士は、少し困った表情を浮かべ、後ろに居た無言の若い男性騎士は、そんな中年騎士を見てクスクスと笑う。

警戒して身構えた俺たちだったが、2人の様子に呆気を取られた。

「あ〜まあ、アレだ。女神に誓ってもお前らが心配している事は無ぇよ。将来が有望そうなお前らに唾付けようとした、ただの青田買いが目的だな」

「青田買い……にゃ?」

「おう、そうだ。お前ら、どうだ? 将来、騎士になる気はないか? 騎士軍団長殿には、高待遇で騎士になれる様に掛け合ってやるが、どうだ?」

「えーっと……もしかして、偉い人?」

少しだけ顔に冷や汗をかくシルルは、困惑しながらも目の前の中年の男性騎士が偉い人か確認した。

「クスクス。はい、この方は、私達中隊を指揮する中隊長になります。私はこの方の部下になります。どうぞよろしくお願い致します」

「こ、こっちこそ、よろしくお願いするにゃ」

「なにをサラッと嘘ついてやがる!? お前も小隊を率いている長だろうが!」

「クスクス。私はまだ、任命を受けて少ししか経っていないので、貴方の部下だった頃の感覚が抜け無いんだがですよ、隊長」

自身はまるで偉く無く、偉いのはグランツだけだと嘘を付いたリュートにツッコミを入れるグランツと笑いながら受け流すリュートは、まるで親しい友人の様な関係だった。

「はあ〜しっかりしろよな……っと、すまんな。俺はグランツだ。んで、こっちの若い騎士はリュートって言って小隊の長だ。俺らは、騎士団の中ではそれなりに発言権はある方だから安心してくれ。よろしくな」

「リュートと申します。今日のグランツ中隊長は、私の部下達を鍛えて下さる為に来ていますので、時間は気にしないで下さい」

「は、はあ、此方こそよろしくお願いします」

「それで、どうだ? 騎士になれば迷宮を探索しなくても一般的な騎士でも中流階級は目指せるし、功績によっては貴族だってなれる。どうだ? 騎士になる気はないか?」

「う〜ん……僕達もまだ冒険者になったばっかりなので、これから挑戦しようと思います。それで、いつか冒険者活動が無理そうって思ったら、その時はよろしくお願い致します」

グランツが、騎士に成らないかと勧めてくる為に俺は、もしも何かあった時の保険くらいのスタンスを取り、完全には拒否しなかった。

それは、前世の経験上、人生には何が起こるか全く分からないって事を知っているからだ。

「(前は選択肢が無さすぎて、介護職員をやっていたけど、今は、選択肢って言う可能性の幅を増やせるなら増やしておくに越した事はないと思うんだ)」

「おう、今はそれで良いさ。折角だ、お前らにこの迷宮の強さの目安を教えてやるよ。リュート、お前もギルド証を出せ」

「クスクス。はい、グランツ中隊長、分かりました」

[名前]リュート
[年齢]27歳
[種族]人間種 パーソン族
[強度]19/100(0/650)
[力量]生力1425魔力680筋力570速力855知力110器力10
[職業](一覧)
[技能](一覧)
[番号]8538742884268415-1

[名前]グランツ
[年齢]53歳
[種族]人間種 パーソン族
[強度]25/100(0/1200)
[力量]
生力5813魔力3293筋力2325速力3488知力968器力110
[職業](一覧)
[技能](一覧)
[番号]7358426143528763-1

「(うわぁ……他の人のステータスなんて初めて見たけど、グランツさんは化け物か!? 俺の2倍はあるぞ)」

俺たちは、指導してくれた両親や祖父達の教育方針の関係上、他人へのステータスの開示は滅多な事では行わないと徹底されている。

その為に例え自分の両親や祖父母、子供でも安易にステータスを見せるのではなく、必要な時は口頭で伝える習慣を身に付けている。それは、情報が流出した時のリスクを最小限にする為だ。

その為に人生で初めて他者のステータスを閲覧した俺だったが、グランツの化け物じみた強さに驚愕のあまり言葉を失った。

「俺の力量だと下層でも単独行動は出来ている。最深部に居る守護魔物はギリギリ勝てるくらいだな。んで」

「私の力量であれば、上層なら単独行動をしても平気です。しかし、中層では一団を組まないと探索は無理ですね。参考になりましたか?」

「(なるほど……じゃあ、技術的な面を除いて、多分だけど、力量でゴリ押ししても上層はなんとかなりそうかな? でも、集団戦の連携は、やった事がないから暫くは要訓練だな)」

現在の俺の数値上の力量では、リュートに勝っている為に1対1のタイマンであれば、中層でもやっていけるかもしれない。

しかし、中層は門に描かれていたグレイウルフなどの獣系魔物が群れを成し集団戦闘を行う可能性が非常に高い。

俺達の戦闘訓練は、あくまでも個人で生き残る為の必要最低限の技術や経験を得る事が、目的だったので個人戦闘ではある程度戦えるが、集団戦闘は勝手が違う為に上層で訓練が必要だった。

「はい! とても参考になります! でも、ギルド証とは言え、アタイらに見せても良いんですか?」

「構いませんよ。まあ、職業と技能に関しては流石に伏せさせて下さい。それに、騎士相手に強盗だとか殺しをした所で百害あって一利なしですからね」

「じゃあ、俺らはもう行くから、騎士の件を考えておいてくれよ」

「皆さん、探索を頑張って下さい」

手を振るグランツとリュートにハッとしたナートは、肘でラートの脇腹をど突いた。

「ーー!? 色々とお世話になったにゃ! ありがとうございましたにゃ!」

ナートの突然の行動に振り向くラートだったが、ナートの頭をチョンッと動かす仕草にハッと気が付き、急いで一団の代表として感謝を述べた。

「「「「ありがとうございました(にゃ)」」」」

俺たちもラートに続く様に頭を下げて感謝を行い、都市を出るための正門へ歩き出した。

 

前の話・BACK

目次

次の話・NEXT

コメント

タイトルとURLをコピーしました