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「よし! それじゃあ、みんな! 今日は西と東の森のどっちに行ってみるにゃ?」
正門に向かう途中、ラートは転移陣のある西と東のどちらを探索するかについて俺達に質問した。
「う〜ん……何となく西から風が吹いている気がするから、今日は西の森に行かない?」
正直な所どちらでも良かった俺だが、前世の経験上”どちらでも良い”と言う答えが、トラブルの元になる事を知っている為、何となく風が吹いている西の森と答えた。
「僕はどっちでも良いから、リオと同じで良いにゃ」
「アタイは上層の魔物と試しに戦えればどっちでも良いよ」
「アタイも〜面倒だから西で良いよ〜」
案の定、全員考えている事は同じだった様で、俺は一悶着を事前に回避できたとホッとした。
「じゃあ、西の森に行くにゃ! 出発進」
「ラート、ちょっと待つにゃ! 外に出る前に戦闘時の話をもっと詰めるべきにゃ!」
ラートが探検出発の音頭を取る瞬間、ナートは少し焦った表情でそれを阻止した。
「んにゃ? 具体的には?」
出鼻を挫かれたラートは、少し不機嫌になりつつもナートに質問する。
「今日は試しに戦って見るけど、1対1が出来そうなら全員が順番に戦って、その間に他の人が周囲を警戒するにゃ」
「ああ〜分かったにゃ。1対1が出来そうなら順番に行って、他は周囲を警戒するにゃ。相手が複数の場合の役割は、オイラとシルルちゃんが前衛、ナートとメルルちゃんが後衛、リオ君は悪いけどナート達を守りながら、魔法でオイラ達の支援をする中衛をお願いするにゃ」
探索中の戦闘方針や戦闘時の役割分担などを指示していなかったラートは、ナートの意見を聞き各自に役割を振った。
「うん、分かったよ。でも、俺も集団戦闘は、初だから慣れるまで時間が掛かったり、手間取ったりするけどそん時はごめんね」
「まあ、リオ、上層だから気楽に行こうぜ」
「リオ、シルル姉の言う通りだよ〜それに、リオが手間取ってもアタイらで補助するから心配ないよ〜」
「ドンと任せるにゃ」
「それじゃあ、気を取り直して、出発進行にゃ!」
「「「「おー!」」」」
城塞都市リントラトビューアの唯一の正門を通り、俺達は外へ出ると都市を囲む様に幅5m・深さ2m程度の堀が掘られており、その上から金属の橋が架けられていた。
「えーっと……何々……”要注意! この橋は、落陽の鐘に上げ、来光の鐘に頃に下げる”だってさ。つまり、鐘がなる前に帰らないと今日は野宿になるみたいだよ」
木で出来た門には、丁寧に注意書きの看板が掛けている事を気が付いた俺は、立ち止まり声に出す様にして幼馴染達に共有した。
「オイラ達は、野営の準備をしていないから、今日はあまり熱中せずに探索するにゃ!」
「まあ、でも、アタイら野営した事ないんだけどね……」
「シルル姉〜今度、父さん達に教えて貰おうね〜」
「そうだな、メルル」
「今後の課題、その①は、野営が出来る様になる事ですにゃ」
「んにゃ。今日はさっき言った通り、探索と戦闘が目的にゃ。上層だからと言って気を抜きすぎない様に気を引き締めるにゃ! 戦闘の役割も暫定で決めた事だから、各自、臨機応変に状況を見て行うにゃ! それじゃあ、行くにゃ!」
「「「「おー!」」」」
掛け声と共に気合を入れ直した俺達は、西の森林を探索し始めた。
俺達の一団は、ラートを先頭にシルル、俺、メルル、ナートの順で歩いている。先頭と後方は、五感に優れた獣人族のラートとナートが全体的に警戒した。
シルルは、ラートの前方警戒の補助を行う為に腕2本分の距離を保ち、右へとズレる様にして警戒を行なった。
俺は、ラートの左後方で間隔を保ちつつ一団の左側と上からの奇襲の警戒を担当し、メルルはシルルの後方、ラートとシルルの間に立ち俺と同様に右と上を担当した。
森林内の木々は、針葉樹の様な細い葉っぱをしていて、枝葉が横に伸びず、真っ直ぐ縦に成長している。
木々は、ある程度の間隔が空いて育っている為に森林内は、程よく日光で照らされていてそれほど暗く無く、警戒もしやすかった。
しかし、同時に普通の森に居る筈の虫や鳥の声が無く、当たりは風の音がするだけでとても不気味だった。
「ーー!? みんな、戦闘準備にゃ」
敵を発見したラートは、右手を上げて急に立ち止まると敵から目を離さず、息を潜める様に指示を出した。
ラートの指示を受けた俺は、その視線の先に居る魔物8体が、とても異様に見えた。
その魔物は、縦に2m前後はある程に大きい植物魔物だった。茶色をベースにした様な迷彩色の身体には、4本の長いトゲトゲの触手をユラユラと揺らし、根っこの部分で器用に歩いている。
頭には緑色の葉っぱがありその中央には、大きな口が開閉を繰り返し、その中には無数の歯の様な物が生えていた。
「数は少し多いけど、見る限り敵は、まだ気が付いて居ないみたいにゃ。リオ君、メルルちゃん、ナートは、ボール系で先制攻撃の準備にゃ」
「我願う……土魔力よ……収束・圧縮し放たれよーー」
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「我願う……風魔力よ…… 収束・圧縮し放たれよーー」
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「我願う……火魔力よ…… 収束・圧縮し放たれよーー」
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上から順に俺・メルル・ナートは、得意属性である土属性・風属性・火属性の魔法陣を展開する。
その時に前衛のラートとシルルは、俺達の射線上入らない様に下がり、俺とメルルが担当していた上下左右の警戒を行う。そして、俺達の魔法が敵に直撃した直後に動くための準備をした。
「ソイルボール」
「ウインドボール」
「ファイアボール」
“ドゥドゥドゥーーン!!”
敵は前列5体、後列3体が固まって留まっている為に、俺は前列左の1体に、ナートは前列中央の1体に、メルルは前列右の1体にそれぞれ魔法を放った。
「「「「ーー!?」」」」
俺達が放ったボール系魔法は、それぞれが狙いを定めた通りに直撃する。
そして1体は、身体中を風の刃で切り刻まれた様にバラバラになり、1体は、身体中を火で燃やされ苦しむ間もなく絶命し、残り2体は、前列に衝突した1体を貫通した勢いを止めることなく、その後ろのもう1体の身体も貫通し絶命させた。
「「「「ーー!!」」」」
同胞を目の前で頃殺された事で、ようやく魔物達は敵である俺達に気が付き、激怒した様に触手を激しく振り回して近づいて来た。
「ーー!! 残り4体がオイラ達に気がついたにゃ! オイラとシルルちゃんは無理せず1体ずつ倒すにゃ! ナート! オイラ達が撹乱して時間を稼ぐにゃ!」
「分かったにゃ! その間に僕らで2発目を準備しておくから、準備が出来たら声をかけるにゃ!」
「リオ、その間にメルル達の護衛を任せた!」
「頼りにしてるからね〜!」
「おう! 任せて!」
「行くぜ! ラート!」
「おうにゃ! シルルちゃん!」
左右に1本ずつ帯剣している片手剣を抜きながら走るラートと背中に大人の背丈ほど大きい槍を背中から抜き走るシルルは、目をギラギラとさせながら前列に居る敵に突貫した。
「メルルちゃん!」
「準備出来てるよ〜」
「俺は後ろで奇襲警戒と索敵をやりながら護衛するから2人とも! 安心して魔法の準備をしてくれ!」
「分かったにゃ! 背中は任せたにゃ!」
「我願う……風魔力よ……収束・圧縮し放たれよーー」
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「我願う……火魔力よ……収束・圧縮し放たれよーー」
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ナートとメルルによる2発目の火と風のボール系魔法は、魔法陣を展開して収束し始める。
一方その頃、ラートとシルルは、前列の近くに居た魔物1体に対してヒット&アウェイを繰り返していた。
「ーー!!」
“ブンッ! ブンッ!”
「フゥーッ。ハァーッ!」
“バチンッ! スゥーッ! スパンッ!”
ラートが魔物に対して攻撃の要である4本の触手を躱し、守り、受け流しながら双剣で切り落とすとその側に居たもう1体に攻撃の対象を移した。
「ーー!? ーー!!」
“ブンッ! ブンッ!”
「ーー!?」
“ズザッ……ズザッ……ズザッ……”
そして触手を鞭の様にして攻撃していた魔物は、その攻撃手段を失うと頭の大きな口で直接ラートを食い殺そうと遅い足で近づく。
「ーー! ーー!?」
“パサッ! ドサッ!!”
「シッ!」
“ブウンッ! スパンッ!”
しかし、それは叶わなかった。何故なら、魔物の足はシルルの薙ぎ払いによって切断されバランスを崩したからだ。
そして、シルルが薙ぎ払う頃には、ラートが相対していたもう1体の触手の切断に成功して居た。その為にシルルは、振り向き様にもう1体の足を切断すると一度下がり距離を取った。
「ラート君! シルルちゃん! 2発目の用意が出来たから一度離れて!」
俺の前で魔法陣を展開している2人の魔法は、完成間近だった為に大声で前衛の2人に退避の合図を出す。
「リオ君!? 分かったにゃ! シルルちゃん!」
前衛の2人は走り退避をすると残りの2体の魔物は、2人を逃すまいと必死に追いかける。そこでラートはシルルを見た後に追い掛ける魔物と横たわり芋虫の様に前進する2体に視線を向けた。
「おう! 任せな!」
ラートの言いたい事を理解したシルルは、後ろを振り返ると大槍を野球のバットの様に持ち振る事で太刀打ち部分で横たわる2体の場所まで吹き飛ばした。
「「ーー!?」」
“バゴンッ! ズザザッドドドッ!”
「今だよ!」
「ファイアボール!」
「ウインドボール!」
“ドゥドゥーーン!!”
放たれた火と風の魔法は、最初に火球が手前の1体に直撃して絶命させるとそこに風球の風魔力が、混じり業炎を巻き上げながら引火した。
「おっと、これは不味い。我願う……水魔力よ……収束し放たれよーー」
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「ラジエイトウォーター」
幸いな事に燃え盛った炎は、周囲の木々には引火しなかった。しかし、念の為に森林火災が起きない様に俺は水魔法で燃え続ける炎を消火した。
「リオ、ありがと〜」
「ありがとうにゃ、リオ」
火の大きさに少し呆然としていたナートとメルルだったが、ハッとすると消火活動をする俺に感謝した。
「良いよ、気にしないで。それよりも、ラート君とシルルちゃん、目の前にした時の敵の強さは、どんな感じだった?」
しかし、消火活動を行う俺自身の認識は、最初に放った魔法1発のみの活躍で、4人と違い物足りなさを感じていた為に行った行為だった。
その為に2人の感謝に嬉しくなり照れつつも、頭の中で意識を切り替えて、前衛2人に体感での敵戦力情報を聞いた。
「んにゃ? う〜ん……かなり弱かったにゃ……触手攻撃も剣から伝わる衝撃がほとんど感じなかったにゃ」
「だよなー。それにリオ達も見ていて思ったと思うけど、奴等メチャクチャ鈍間だしさ、正直言って、魔法は要らなかったと思うぜ」
「シルルちゃんの言う通りにゃ。今回の戦闘は、オイラ達が偶々格上だったから上手くいっただけにゃ。慢心も油断もしにゃいが、集団戦闘の訓練ならもっと奥に進まないと訓練にならないにゃ」
「同感だぜ。取り敢えず、それなりに強そうな奴等が出てくるか、この森を抜け出すまでは、他の魔物を無視して駆け抜けようぜ?」
「オイラは、シルルちゃんに賛成だけど、3人はどう思うにゃ?」
敵と至近距離で戦った前衛組は油断も調子に乗った様子も無く、落胆した様子で俺達に自身が体感した敵戦力情報と今後の活動目標を伝えた。
「俺も正直言って手応えが無さすぎたから奥に進んで良いと思うよ。まさか、初手のソイルボールで2体とも倒せるとか思ってなかったし」
「アタイも賛成〜。アレくらいの強さなら寧ろ魔法は、魔力の無駄遣いだと思うから無視して先に進もうよ〜」
「ナートは?」
「僕も良いと思うにゃ。ただ、今回は短時間での探索だから、弱い魔物を無視するにしても森を抜けるまでとか魔物が強くなった所までとか、目標を明確にして区切った方が良いと思うにゃ」
「うん、確かにそうだね。それなら、”一旦奥に進んで森を抜ける又は、そこそこ強い魔物に出会うまで探索する。それが済んだら今度は、前衛と後衛を入れ替えて集団戦闘を試してみる”って事にしない?」
「「「「異議なし(にゃ)」」」」
ナートの提案に付け加えした俺の提案を幼馴染達は、賛成すると今にも燃え尽きそうになっている植物の魔物の方向に視線を向けた。
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