「うん、それが良いさ。さてっ!暗い話は一旦終わり!楽しい魔法の話をしようか、リオ君。」
祖父は胸の前で手を叩くと真面目な表情から一転して笑顔になりそれまでの空気を変えた。
「えっ?、でも、良いの?父ちゃんや爺ちゃんみたいな覚悟を持っていない俺が魔法を教えてもらっても…。」
俺は祖父の突然の切り返しについて行けず困惑する。
「うん。まぁ、私達からリオ君に暗くキツイ話をしてしまったけれどさ。リオ君は受け止めて答えを考えてくれるのだろ。なら充分だよ。」
「そうですね。リオ、前にも言ったけど、最初から覚悟がある奴なんていねぇよ。覚悟ってのはやってみて少しずつ身に付いていくものだ。考え続けろ、リオにとって何が大切かを。そうすりゃ、その内身についているさ。」
祖父と父は互いに顔を合わせてから俺を見て頷く。
「(ズズーッ)うん、よろしくお願いします。」
俺は父と祖父の愛情やら信頼に嬉しさで胸が一杯になり鼻水が垂れないように必死に啜った。
「はははっ。うん、それじゃ気を取り直して魔法の授業を再開するよ。リオ君は何属性の魔法に適性があるのかな?教えてくれるかい。」
祖父は鼻水が垂れそうな俺に笑いながら、俺の適性属性について質問する。
「土属性と水属性だよ。」
「うん、教えてくれて、ありがとう。それじゃあ、どうやったら自分の使える魔法を増やすことができるか覚えているかい?」
祖父は俺が質問に答えると右手で俺の頭をポンポンとまるで幼児を慰めるように頭を軽く叩きながら話を進める。
「うん、母ちゃんが言っていたんだけど、なんか無属性魔法を使うんだよね?それで生まれつきの適性以外の属性を体で受け続けることで生み出すんだよね。」
「そうだね。じゃあ、実際にやってみようか。アモン君私の魔法を受けてみてくれないか。」
祖父は右人差し指を立てて実技を行う為に父に相手役を頼んだ。
「ああ、なるほど。分かりました、では少し距離を取りますね。」
ここで漸く父は何故自分が呼ばれたのかを理解したのか、20mくらい距離を取り準備した。
「”我願う。魔力よ、我が身を覆い、我が身を魔法から守る鎧を放たれよ。アンチマジックアーマー”。お義父さん、準備は整いました。いつでもどうぞ。」
父は初めて聞く魔法アンチマジックアーマーを発動すると少しだけ白っぽい透明の膜が、父の全身を覆った。
「うん、分かった。ではリオ君、よく見ていなさい。”我願う。火よ、火球となり、我が右手の平から放たれよ。ファイアボール”」
祖父が右手を突き出すと右手の平からバスケットボール7号サイズの火の玉が放たれた。
「ぐっ!ハァッ!」
火球が父の胸と顔の間くらいに当たる瞬間に、父が両腕をバッテンにして魔法の着弾地点を変更させた。両足で魔法の威力を踏ん張りつつ、気合いと共にバッテンにした両腕を伸ばすと火球はその勢いに耐えきれず霧散した。
「リオ君。あんな感じで耐性を身に付けて、自身の適性を増やしていくのさ。アモン君!受けてくれて、ありがとう。」
祖父は父の方に指差すと大きな声で父に感謝をした。
「ワッハッハ。流石、お義父さんですな。お互い制限しているとはいえ、かなりの威力でした。」
「そう言ってくれて、ありがとう。」
「父ちゃんも爺ちゃんもスッゲ〜!」
「おう!そうだろ、そうだろ。」
俺は漸くいつも知っている明るい父が戻ってきたことに安心感を覚えた。俺はさっきまでの不安や恐怖が薄れて、初めての魔法戦闘を見て興奮が抑えきれなかった。
「うん、ありがとう、リオ君。それと一応これ以外にも適性を増やす方法があるんだよ。」
「んっ?他にもあるの!?」
俺は母ちゃんが教えてくれなかった新事実に俺は興味津々だった。
「うん。属性魔法を放てる魔法武器を使う事だね。魔剣とか魔杖なんかが有名だね。これ等を使っていると自然に耐性が身に付き、安全に適性を増やすことが出来るのだよ。」
「えっ、じゃあ態々父ちゃんみたいに受ける必要がなく無い?だってあれって下手したら死ぬよね?危なく無いの?」
俺は魔法はいくら防御しているとは言え直撃は危険であると思っている。何故なら拳銃だっていくら防弾チョッキを着ていても骨折する事もあるそうだ。つまり態々痛い思いをしなくても習得が出来るならそれに越した事は無いのである。
「うん、その通りだよ。でも魔法武器を使った適性の増加は安全な面、習得に長い時間が掛かる事や魔法武器自体に多大なお金が発生する事とあまり市場に流通していない事、その他多くの重要な技能を身につけづらくなる事などが挙げられるね。」
「えぇっ…。そんなに…あるの…。」
俺は予想した以上に多いデメリットに俺はげんなりし、右頬を引き攣らせる。
「例えば、無属性魔法を習得する際には自身の属性魔力から無属性魔力を分離させて抽出する必要があるんだ。適性が多ければ多い程、分離させなければいけない回数が増えるからその分難易度も高いなるんだ。」
「うわぁ…俺みたいに適性が複数あるのって割と不便なんだね。」
俺は通常と言うか前世の小説やゲームでは生まれ持った複数の属性所持は才能として扱われる面が強かった気がする。それだけに俺は少し失望感を感じた。
(でも、よくよく考えてみれば絵の具が混ざった状態から混ざる前に分離させるのは困難と言うか激ムズだよなぁ。)
「う〜ん。短期的に見るか、長期的に見るかの違いだと思うよ。生まれながらに複数適性があるのは、それだけ手段が増えるって訳だからね。武器術を主体に戦う人たちにとっては、魔法は補助的な価値である事が多いからそう言った意味で短期的でも利点は多くて良いんじゃ無い?」
祖父は落ち込む俺に違う見方があり、どっちもどっちである事を説明した。
「はぁーそう言う考え方も出来るのかぁ。」
「うん、続けるよ。無属性魔法を習得してアモン君の様に耐えた続けた結果、属性魔力耐性、さっきの場合だと火魔耐性を得るんだ。」
「ひま耐性?ああ、火魔耐性か…。んじゃあ、水属性なら水魔(みま)耐性が身につくの?」
「うん、飲み込みが早いね。それで合っているよ。」
「んっ?でも爺ちゃん、俺って水魔法の適性があるけど水魔耐性持ってないよ。適性があるのは耐性って習得出来ないの?」
俺は祖父の説明に疑問を持ち質問した。
(仮に属性耐性を持つ事が属性魔法を習得する条件であれば、俺のステータスはおかしい事になる。一体、どう言う事だろうか?)
「うん、良い質問だ。では、その答えはリオ君の身をもって体験してもらおうか。”我願う。火よ、燃え続けよ”」
祖父は俺や父が近くにいるにも関わらず魔語を詠唱する為に俺は驚き、慌てた。
「えっ!?爺ちゃん!魔語を言ったのに右手の平から大分小さいファイアボールが放たれず留まっているよ!どうなってんの?」
祖父の左手の平で燃えている火球はさっきよりも小さくおよそハンドボールサイズであった。
「うん、これはな、魔法では無く属性魔力を放出してそれを操作してファイアボールみたいに形作っているに過ぎないよ。故にこれに人を殺すだけの威力は無い。勿論、込める魔力量と使い方次第ではその限りでは無いけどね。」
俺は祖父がさっきの詠唱に比べると全体的に短く、肝心のファイアボールと言う魔語も言っていない事を思い出した。
「そうなんだぁ。」
俺は間違えた事に少し恥ずかしさを覚えたが自分が照れている事を隠しながら祖父の説明に頷いた。
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